判断は、頭の中だけで起きていない

腹をくくる。
肝が冷える。
胸騒ぎがする。
腑に落ちる。
日本語は昔から、判断や感情を内臓の言葉で語ってきました。
決断とは頭の中の作業のはずなのに、私たちはそれをお腹や胸の出来事として表現してしまいます。
これは、あながち比喩だけの話ではありません。
私たちが「感覚」と呼ぶものの大半は、外を向いています。
目は光を、耳は音を、皮膚は温度を捉える。
すべて、体の外で起きていることを知るための装置です。
ところが体には、内側を向いたセンサーもあります。
心臓の鼓動、空腹、満腹、吐き気、疲れ。
これらを感じ取り、意味を読み取る能力は内受容感覚と呼ばれています。
そしてこの内側からの信号は、危険や疲労を知らせることで、感情や行動、さらには意思決定にまで影響すると考えられてきました。
実際、体の声を聞くのが上手い人ほど衝動的になりにくい、あるいは有利な選択をしやすい、という報告はいくつも積み重なってきました。
なかでも印象的なのが、ロンドンの金融トレーダーを調べた研究です。
自分の心拍を正確に当てられる人ほど、市場で長く生き残っていたという結果が報告されています。
内面に耳を澄ますことができる人は、危ない橋を渡らずに済んでいる——そんな証明にも思えます。
ところが、この見方には落とし穴がありました。
体の声が聞こえるから慎重になれるのか、それとも慎重な性格の人がたまたま体にも敏感なのか。
「卵が先か鶏が先か」の問題のように、どちらが先かを断言できなかったのです。
そこで今回研究者たちは、参加者たちの体に物理的な刺激を与えて確かめることにしました。
調査にあたってはまず、健康な男女47人が集められ、最終的に44人分のデータが分析されました。
そして体幹を締めるインナーを着る日と、ゆったりした服で過ごす日を、1日ずつ体験してもらいました。
またどちらを先に着るかはランダムとされました。
こうすると同じ人が両方の条件を経験するため、性格や体質といった個人差の影響を、大きく取り除けます。
そのうえで、参加者はリスクを測るゲームに臨みました。
画面には32枚のカードが並びます。
当たりを引けば得点、外れを引けば失点。
参加者は「何枚めくるか」を自分で宣言します。
多くめくれば得点は伸びますが、外れを引くと、あらかじめ示された点数を失います。
そのため宣言した枚数が、そのままその人のリスクの大きさになります。
結果、胴体を締めた日、参加者がめくると宣言したカードの枚数が減ったことが判明します。
参加者たちがめくっていたカードはおおむね13〜14枚でしたが、胴体を締めた日は1枚ほど(率にすると1割弱)減っていました。
なお、男女に分けて追加で解析したところ、男性への効果は不確かだったものの、女性に限れば1.7枚ほど(1割強)減っていました。
(※ただし性差については事前の研究計画にない事後解析で、「男女で効果が違う」ということ自体は、統計的に確かめられているわけではありません。そのため論文でも「人間全体(被験者全体)」では胴体を締めるとリスクをとらなくなるという因果関係が示されているという結論になっています)





























