バイアグラには男性の早期死亡リスクを大幅に下げる可能性があると判明!
よく知られている通り、バイアグラは勃起不全治療薬ではありますが、元々は高血圧や狭心症の治療薬として開発された経緯があります。
そのためバイアグラの主成分であるホスホジエステラーゼ5阻害剤(PDE-5i)には、血管に作用することで陰茎海綿体の動脈を拡張させ勃起を促す作用があると知られていますが、それは陰茎だけに限定された効果ではありません。
バイアグラの血管に対する作用は基本的に全身性のものであり、勃起不全以外にも体に有用な効果があると期待されているのです。
実際、2005年にはバイアグラの主成分は肺動脈性高血圧症の治療薬(Revatioと呼ばれる)としてFDAによって承認されています。
もしバイアグラの持つ効果が陰茎や肺動脈以外にも有益な効果をもっている場合、既存の医薬品を転用することで比較的簡単に新薬として開発することが可能になります。
そこで今回、ハンティントン医科学研究所の研究者たちはバイアグラの体への影響(特に心血管への影響)を調べるため、大規模な調査を行うことにしました。
調査にあたってはまず、バイアグラを摂取したことがある2万4000人と摂取したことのない4万9000人の医療記録が集められ、数年にわたって健康状態の追跡が行われました。
結果、バイアグラを摂取した男性は老衰を含むあらゆる病因による死亡率が25%低下しており、主要な有害心血管イベント(MACE)の発症率も総合して13%低下していることが判明。
また個々の症状をみると、心不全は17%減少、心血管死は39%減少、不安定狭心症は22%減少、冠動脈再建手術は17%減少と、大きく低下していることが示されました。
さらに得られる効果はバイアグラを摂取した量に依存することも明らかになりました。
具体的には、バイアグラを最も多く摂取した上位グループは、摂取量が最も少ない下位グループと比較して全死亡率が49%減少し、有害な心血管イベントの発症率も55%減少するなど、顕著な違いが明らかになりました。
さらにバイアグラを多く摂取したグループでは、脳卒中や心筋梗塞など他の病気の発症率も大幅に低くなっていました。
この結果はバイアグラの使用が量依存的に全死亡率や心血管疾患の低下と相関していることを示します。
同様の結果はげっ歯類を用いた動物実験でも示されており、バイアグラが血管内皮の機能を改善して血管抵抗を減少させ、血圧の低下を起こしていることが示されています。
また他の研究では、バイアグラの利点には動脈硬化の減少や収縮期速度の減少、および炎症の減少が含まれている可能性が示唆されています。
研究者たちは「バイアグラは血管内皮の健康状態を改善することで、心臓を保護している可能性がある」と述べています。
(注意:医師の指導なくバイアグラを健康サプリのように摂取してはいけません)
ただ本研究にはいくつか注意すべき点もあります。
そのうちの1つは研究者によって論文にも記載されていますが「バイアグラを積極的に使う男性はそうでない男性に比べてもともと健康状態がいい可能性がある」ということです。
この問題を解決するには、心臓疾患をかかえる人々に対してバイアグラとプラセボをランダムで飲んでもらうプラセボ対照試験を行う必要があるでしょう。
2つ目は今回の研究資金の出所が、バイアグラを販売している製薬企業であり、利権関係が研究内容と被る点にあります。
もっともこちらは、1つ目にくらべると小さな問題と言えるでしょう。
既存薬の新効果の探索は、どの製薬企業も行っていることであり、ポジティブな結果からRevatioなどの新薬が開発されるのは珍しいことではありません。
バイアグラも元々は狭心症の治療薬として開発されたものを、被験者たちが余った薬の返却を拒んだことから、勃起不全の改善薬としての効果が発覚しました。
3つ目は、今回の研究結果がバイアグラの使用と病気の発生率の低下について相関関係を示したものであり、因果関係を調べたものではない点にあります。
因果関係を証明するにも、やはり鍵となるのはプラセボ対照試験となるでしょう。
研究者たちは最後に「バイアグラと健康効果の因果関係を確かめるために、早急なプラセボ試験を実施すべきである」と提言しています。