化学賞:ナノテクノロジー発展につながる「量子ドット」
化学賞は「量子ドット」と呼ばれる非常に微細な結晶の研究に対して送られ、アメリカ、マサチューセッツ工科大学のムンジ・バウェンディ氏、コロンビア大学のルイス・ブルース氏、旧ソ連出身であるアレクセイ・エキモフ氏が受賞しました。
量子ドットは、1ミリの100万分の1という小ささの微細な結晶であり、わずかな大きさの違いで発する光の色が変わることなどがわかっています。
量子ドットの研究は色付きガラスから始まりました。
色付きガラスはガラスに様々な金属化合物を合わせて作りますが、同じ化合物を合わせた場合でも溶かす温度や加熱時間などによって色が変わることがあったのです。
この現象をエキモフ氏は「ガラスに溶け込んでいる微細な化合物の結晶の大きさが異なるからではないか」と考えました。
1979年、実際に同じ化合物が溶け込んだ色の異なるガラスについて化合物の結晶の大きさを測定してみたところ結晶の大きさが小さくなればなるほど、吸収される光の波長が短くなることを発見したのです。
この時点でエキモフ氏は量子力学の影響を受ける微細な結晶、つまり量子ドットを発見していたことになりますが、この時点では量子ドットをガラスの中から取り出すことができませんでした。
それから数年経った1983年、ブルース氏がエキモフ氏と同じ現象を溶液内で実証します。
しかし、当時はおりしも米ソ冷戦時代で、ブルース氏とエキモフ氏の研究が包括的に語られることはなく停滞していました。
量子ドットの研究が一気に実用化に向けて進んだのは、バウェンディ氏が量子ドットの安定した製造法を確立した1993年のことです。
バウェンディ氏は量子ドットの元となる金属化合物を高温の溶媒に一気に注入し、溶媒が冷めることで小さな量子ドットを製造しました。
さらに溶媒を再び加熱することでその量子ドットを大きく変化させていくことで様々な大きさの量子ドットを安定して作り出すことに成功したのです。
光を吸収し別の波長の光を放出する量子ドットは、色鮮やかなディスプレイや植物の成長を促進する光を強めるフィルムなど、様々な分野で実用化されています。
また医療分野でも活躍が期待されており、量子ドットを蛍光試薬としたがんの超早期発見なども実用化に向けて進んでいます。
研究分野の垣根を超えた実用化
今回、生理学・医学賞はmRNAワクチンに関する研究が受賞しましたが、物理学賞や化学賞も医療に関わる実用化につながっており、様々な研究が分野を超えて実用化されています。
今回化学賞となった量子ドットについても、本来量子力学は物理学に近い分野です。
科学の世界はいくつもの分野に別れていますが、それは断絶されるものではなく互いの知識が絡み合って新しい技術に繋がっています。
今後の研究でもそれぞれの分野の専門家が手を取り合うことで、新たな分野の発見が進んでいくことが期待されます。