月の光だけを検知できる生物の特殊な光システムを解明!
月の光だけを検知できる生物の特殊な光システムを解明! / Credit:Canva . ナゾロジー編集部
biology

「満月に交尾する」生物は海面越しにどうやって月を見分けるのか?

2023.12.25 Monday

夜空に輝く月。

私たち人間にとってはロマンティックな存在かもしれませんが、海で生活する環形動物「イソツルヒゲゴカイ(Platynereis dumerilii)」にとっては、生殖のタイミングを知らせる重要な信号です。

この小さな生き物にとって、生殖は人生で一度きり。

だからこそ、その大切な瞬間を逃さないために、彼らは月のリズムに合わせて動くのです。

では、どうやって海中のこれらの生き物は、月が最も明るい夜を知るのでしょうか?

ドイツのヨハネス・グーテンベルク大学マインツ(JGU)に発表した研究によって、この小さな生物たちが強い太陽の光に惑わされず、柔らかな月の光を感知するための興味深い仕組みが明らかになりました。

研究内容の詳細は『Nature Communications』にて公開されています。

How marine bristle worms use a special protein to distinguish between sunlight and moonlight https://press.uni-mainz.de/how-marine-bristle-worms-use-a-special-protein-to-distinguish-between-sunlight-and-moonlight/
A marine cryptochrome with an inverse photo-oligomerization mechanism https://www.nature.com/articles/s41467-023-42708-2

月あかりに照らされた「死の舞踏会」

月の光だけを検知できる生物の特殊な光システムを解明!
月の光だけを検知できる生物の特殊な光システムを解明! / Credit:Canva . ナゾロジー編集部

が僅かに欠けはじめた夏の暑い夜、それは起こります。

海洋に生息する「イソツルヒゲゴカイ(Platynereis dumerilii)」は生殖時期になると、消化管を退化させて「食」を捨て、全身に精子と卵子を蓄積させて、全身の筋肉を強化されます。

少し前までは、数センチほどの生命体だった彼らは、今や泳ぐ精子タンクあるいは卵子タンクとなって、海面まで浮上していき、オスとメスは「結婚のダンス」を踊りながら、体内に詰まった精子と卵子を海中に放出します。

彼らのニョロニョロとした細長い体を気にしなければ、まるで月明かりに照らされた舞踏会と言えるでしょう。

しかしイソツルヒゲゴカイたちは変身過程で消化管を二度と使用できないほど委縮させてしまっており、月明かりの舞踏会は出席者全員の死と共に幕を閉じます。

地球上では多くの生命が月の満ち欠けにあわせて行動することが知られています。

ウミガメやサンゴなどが満月の夜に卵を産むことを知っている人も多いでしょう。

人間の月経周期が満月に影響されるかは議論がありますが、いくつかの研究では、女性ホルモンは月の満ち欠けに大きく影響を受けており、満月の前後で生理が多くなると報告しています。

月の満ち欠けは29.5日のほぼ完全なサイクルをしているため、多くの種が生殖のタイミングを計るために利用しているのです。

しかしここで大きな疑問が出てきます。

月の光は太陽光の40万分の1しかありません。

イソツルヒゲゴカイたちをはじめ、月のサイクルを利用している生命たちはどのような仕組みで強い太陽光に惑わされることなく、柔らかな月の光を検知しているのでしょうか?

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