顧客の負担や不満が多いのが問題
セルフレジの大きな問題点は顧客の負担や不満が大きいことでしょう。
セルフレジや機械の操作に不慣れだと、精算に時間がかかってしまいますし、何より品物のスキャンが面倒です。
ユニクロなどのようにRFID(無線自動識別)の技術を用いたICタグを用いていれば、束ねた商品を置くだけで自動で機械が全ての商品を読み取ってくれるため、セルフレジが十分に機能しています。
しかし短い頻度で入れ替えが必要な生鮮食品や、非常に数多くの品目を取り扱うスーパーでは、全ての商品にICタグを付け、一括で読み込ませることは困難です。
また顧客の側も大量の商品をまとめ買いする頻度が高いため、これらの商品のバーコードを手作業で読むとなると、負担が大きくなります。
そのため「とてもじゃないけれど、毎回自分でセルフレジをするのは面倒くさい」という人は多いはず。
加えて、操作の困難や機械のエラー、年齢制限の確認など、結局は店員さんを呼ばなければならないこともあります。
それで結局は「じゃあ、最初から店員さんのいるレジに並ぼう」という人が相当数いるのです。
2021年にアメリカの買い物客1000人を対象に実施された調査では、消費者の60%が店員のいるレジよりもセルフレジを利用したいと回答していましたが、そのうちの67%がセルフレジを利用しようとして失敗し、結局は有人レジに変えた経験があると回答していました(Raydiant, 2021)。
米テキサス大学(University of Texas)でマーケティングを専門とするアミット・クマール(Amit Kumar)氏は「セルフレジの技術自体が良い悪いというわけではなく、セルフレジを利用した結果、顧客側がメリットを感じなければ、心理的にセルフレジを使わない方へ切り替えるでしょう」と述べています。
もしかしたら、皆さんの中には「行きつけのスーパーがセルフレジになってしまったから、通うお店を変えた」という人もいるかもしれません。
こうしたいくつもの懸念点から、欧米諸国ではセルフレジの設置数を減らす方針を取っている店舗が増えています。
例えば、イギリスのスーパーマーケットチェーン・Boothsは、顧客から「セルフレジは動作も遅くて信頼できない」という苦情が多く寄せられたため、店舗内のセルフレジの数を減らしました。
またアメリカで急成長している1ドル均一ショップのDollar Generalも2022年にはセルフレジ導入に大きく傾倒していましたが、同社CEOのトッド・ヴァソス(Todd Vasos)氏は2023年の決算発表の場で「我々はセルフレジに頼りすぎていたが、セルフレジはメインではなく、サブのレジとして利用すべきだ」と述べ、方針を転換しています。
とはいえ、アパレルメーカーやレンタルショップ、ファストフード店、映画館など、セルフレジが効果的に機能している業界は多く、今後も普及が進むことは間違いないでしょう。
また店員との接触がないことから衛生面で大きな効果があるとも指摘されています。
セルフレジが今後も幅広く活用されていくのは確かでしょう。ただこのシステムを利用する経営者はそのメリットとデメリットのバランスをよく検討する必要があるかもしれません。