女子は空間を把握するのが苦手?
研究の出発点にあったのは、「空間把握能力(spatial ability)」に見られる男女差の正体を探ることでした。
空間把握能力とは、頭の中で物体の位置関係や方向をイメージし、必要に応じて回転させたり、移動させたりできる力のことです。
地図を読むときや、スポーツで相手との距離を測るとき、家具を動かして部屋をレイアウトするときにもこの力が使われています。
これまで多くの研究では、男性のほうがこの空間把握能力を測る課題(立体的な図形を頭の中で回転させる“心的回転”)で高い成績を示す傾向が報告されてきました。
そのため、「男性は空間把握に優れ、女性は言語能力に優れる」などの固定観念が半ば常識のように語られてきました。
しかし研究者たちは、この考え方に疑問を抱きました。
研究者たちは、「男女差」を生まれつきの能力として見るのではなく、どんな経験を重ねて育ってきたかという環境的要因も大きいのではないかと考えたのです。
実際、地図が読める読めないなどは個人差が大きく、女性で得意な人もいれば男性で苦手な人もいます。
ではどのような経験がその差を生むのでしょうか?
そこで注目されたのが、幼児期の遊び方です。幼児期の脳は可塑性(plasticity)が高く、遊びを通して思考の基盤が形づくられる時期です。
そこで彼らは、幼少期にどんな遊びを好むかを調査し、10年後の空間能力にどのような関係を持つのかを調べることにしたのです。
研究では、英国の大規模調査「ALSPAC(エイヴォン縦断親子研究)」のデータを利用しました。
この調査では、子どもが3歳半のとき、「どんな遊びを好んでいたか」を親がアンケート(PSAI)で答えています。
研究チームは10年前と現在のこの調査の回答データを用いて、3歳時点の遊び傾向と、13歳時点の空間把握テスト(心的回転課題)の結果を照らし合わせました。(調査では60%の参加者が10年間継続して追跡出来ていました)
アンケートの質問では「レゴやブロック遊び」「プラモデルなどの組み立て」「乗り物のおもちゃ」「ごっこ遊び」などが含まれます。
これらの傾向からブロック遊びやプラモデル・アスレチックや立体遊具を使った鬼ごっこなど「男の子らしい遊び」と、ごっこ遊び・人形遊びなど「女の子らしい遊び」、お絵かき・パズル・ゲームなど性別で偏らない「中間的な遊び」が分類されました。
子どもたちが13歳になったときに調査された、“心的回転課題”とは、回転した立体図形を見比べて一致しているかを判断するテストで、空間把握能力を測る代表的な方法です。
この調査結果ははっきりしていました。