【沖縄科学技術大学院大学】外部電源を必要としない浮遊する回転円盤を開発
【沖縄科学技術大学院大学】外部電源を必要としない浮遊する回転円盤を開発 / Credit:浮上ローターが切り拓く、古典・量子物理学のための超精密センサー
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【沖縄科学技術大学院大学】外部電源を必要としない浮遊する回転円盤を開発

2025.10.15 20:00:59 Wednesday

日本の沖縄科学技術大学院大学(OIST)で行われた研究によって、外部電源を用いずに「宙に浮き回転し続ける円盤」が実現しました。

直径わずか1センチほどのグラファイト(高純度の黒鉛)製の円盤が、磁石の作る軸対称の磁場によって浮き、しかも回転の妨げとなる摩擦(渦電流の抵抗)を原理的にゼロにできる条件を示し、実験では極めて小さく抑えることに成功したのです。

摩擦のない世界への扉を開くようなこの発見は、精密なセンサーや量子力学の研究にも大きく役立つ可能性があります

なぜ円盤は延々と回り続けることができたのでしょうか?

研究内容の詳細は2025年10月10日に『Communications Physics』にて発表されました。

浮上ローターが切り拓く、古典・量子物理学のための超精密センサー https://www.oist.jp/ja/news-center/news/2025/10/10/freely-levitating-rotor-spins-out-ultraprecise-sensors-classical-and-quantum-physics
A magnetically levitated conducting rotor with ultra-low rotational damping circumventing eddy loss https://doi.org/10.1038/s42005-025-02318-4

グラファイトを浮かせる――科学者たちが目指した新たな挑戦

グラファイトを浮かせる――科学者たちが目指した新たな挑戦
グラファイトを浮かせる――科学者たちが目指した新たな挑戦 / Credit:浮上ローターが切り拓く、古典・量子物理学のための超精密センサー

「摩擦を極限まで小さくした宙に浮く円盤がある」と聞いたら、「またまた、ご冗談を」と思うでしょうか?

ところがこの嘘のようなことが、最新の研究で現実になったのです。

磁石の上にそっと置かれた小さな円盤が、まるで魔法のじゅうたんのようにふわっと宙に浮いて、外部からエネルギーを与えなくても長い時間回り続けます。

SFのようですが、科学の力によって、そんな夢みたいな光景が生まれたのです。

しかし、磁石で遊んだことがある人は「そんなこと本当にできるの?」と首をかしげるかもしれません。

実際、普通の磁石を使って何かを空中に浮かせようとすると、なかなか思い通りになりません。

磁石の極と極が反発しあっても、不安定でぐらぐらと揺れたり、すぐに横にすっ飛んでしまったりしますよね。

この難しさには、実はちゃんと理由があり、「アーンショウの定理」と呼ばれています。

これは簡単に言えば、「磁石だけでは物体を宙に安定して浮かせ続けることは不可能だ」という物理学のルールなのです。

ただし、このルールには例外もあります。

たとえばリニアモーターカーは、強力な超電導磁石と精密な制御システムを使い、安定して浮いて高速で走ることができます。

これは外から電気エネルギーを供給して強力な磁場を作り続けるから可能なことです。

でも実は、もっと手軽に、常温でも磁石だけで安定に浮かせることが可能な素材があります。

それが、炭素からなる「グラファイト(黒鉛)」です。

グラファイトは「反磁性」という性質を持っていて、これは磁石にくっつくのではなく、磁石の磁場から逃げようとして押し返される性質を持つことを意味します。

適切な配置をした磁石の上にグラファイトを置くと、強い磁力に押し上げられて、ふわっと安定して浮かんでしまうのです。

しかし、グラファイトを宙に浮かせて「回転させる」となると、途端に新しい難問が現れます。

それが「渦電流」という現象から生まれる摩擦なのです。

少し詳しく解説しましょう。

電気を通す金属などの素材が磁石の近くで動くと、その物体の中では磁石の磁力を打ち消そうとして、小さな電流が勝手に渦巻き状に流れ始めます。

これが渦電流です。

渦電流が起きる理由は、中学生で習った「電気・磁気・力」の関係にヒントがあります。

物体が動いて磁石が作る磁場の中を横切ると、そこにいる電子たちは動きに応じて流れ始める性質を持っています。

電子が磁場の中を動くと、動きによって電気が発生する、という仕組みです。

でもこの電気(電流)はタダで流れるわけではありません。

電流が流れると、それによって物体の中には新しい磁力が発生します。

元々の磁石の磁力と、この「新しく生まれた磁力」の間で力が発生し、その力が回転する動きを邪魔する方向に働くのです。

これは物理学では「レンツの法則」と呼ばれ、磁石のそばで起こる電流は必ず元の動きを止めようとする反対向きの力を生み出します。

この力が「摩擦」の正体であり、物体は次第にエネルギーを奪われてゆっくりと止まってしまうのです。

これを聞いて「じゃあ、摩擦ゼロの浮遊円盤なんて絶対に作れないの?」と思ってしまうかもしれません。

確かに従来の研究でも、この「渦電流摩擦」を避けようと色々な方法が試されてきました。

たとえばグラファイトを微粒子に砕いてワックスに混ぜ、渦電流が広がるのを防ぐ方法などが考え出されました。

この方法はかなり成功したものの、ワックスが重くなって浮上しにくくなるという欠点がありました。

そんな中、今回の研究チームは「摩擦を避ける」のではなく、もっと根本的な解決策を考え出しました。

そのポイントは、磁石と円盤の配置を「完璧な対称」にしてしまうことです。

では、なぜ対称性が重要なのでしょう?

たとえば、磁石を完全な円形に並べ、その真ん中にまったく同じような円形の円盤を置いたとします。

この状態では、円盤が回転しても円盤から見る磁石の並び方や磁場は常に同じ景色として見えます。

磁場に「動き」がないように見えれば、電子たちはそれを見て「磁場が変わらないのなら、自分たちは動かなくてもいいんだ」と考えることになります。

円盤を磁石の並びと完全に揃えることで磁場の変化が完全になくなり、電子はまるで騙されたように反応しなくなるのです。

例えば、普通の磁石の上で回転する円盤は、坂道を上り下りする自転車のようなものです。

磁場の変化は坂道のアップダウンのように電子を揺らし、電流を生み出します。

これがさらなる磁力を作り、回転を止めてしまいます。

しかし、磁石を完璧に対称にすると、電子にとってはまったく起伏のない平坦な道を自転車で走るのと同じです。

すると電子は揺らされることがなく、電流も生まれず、回転を妨げる摩擦も生まれないことになります。

もしこの「対称性を高める」というアイデアがうまくいけば、純粋なグラファイトの円盤を使っても、渦電流による摩擦をゼロに近づけることが可能になるはずです。

果たして「対称性」という発想一つで、渦電流という壁を打ち破ることができるのでしょうか?

科学者たちは、この大胆な仮説を検証するために実験を行いました。

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