【沖縄科学技術大学院大学】外部電源を必要としない浮遊する回転円盤を開発
【沖縄科学技術大学院大学】外部電源を必要としない浮遊する回転円盤を開発 / Credit:浮上ローターが切り拓く、古典・量子物理学のための超精密センサー
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【沖縄科学技術大学院大学】外部電源を必要としない浮遊する回転円盤を開発 (2/3)

2025.10.15 20:00:59 Wednesday

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電源不要の『浮く回転円盤』が実現

電源不要の『浮く回転円盤』が実現
電源不要の『浮く回転円盤』が実現 / Credit:浮上ローターが切り拓く、古典・量子物理学のための超精密センサー

研究チームが実際に行った実験は、一見シンプルな装置で構成されていました。

直径1センチ、厚さ約1.12ミリという非常に小さな円盤が主役です。

素材はグラファイト(高純度の黒鉛)で、鉛筆の芯に使われる炭素からできた物質です。

この円盤を、希土類磁石という非常に強力な永久磁石を円形に並べた装置の真ん中にそっと置きます。

すると、円盤は磁石の力によってふわっと宙に浮きます。

ポイントは、この磁石が軸対称(中心を軸に完全に同じ配置)に並べられているということです。

さらに重要なことは、この浮遊に電気や電子制御を使わず、磁石の自然な力だけで成り立っているという点です。

磁石が持つ自然な磁力だけで、このグラファイト円盤を静かに宙に浮かせてしまったのです。

ただ浮かせるだけでなく、実験チームは円盤を手でそっと回転させてみました。

すると円盤は、軸対称な磁場の中で安定した姿勢のままクルクルと回り続けました。

この状態をより正確に観察するため、装置全体を真空チャンバーの中に入れて空気抵抗を極力減らし、円盤の回転速度がどのように変化するかを精密なカメラとモーショントラッキング技術で追跡しました。

実験の結果は、研究者の予想を見事に裏付けるものでした。

大気中の通常の状態では、円盤は当然ながら空気の摩擦によって徐々に減速します。

ところがチャンバー内の空気を少しずつ抜いて真空に近づけていくと、回転の減速がみるみる小さくなり、ほとんど減速しないような状態になりました。

しかし、完全な真空に近づけたときにもごくわずかながら減速は残りました。

このわずかな減速の原因を詳しく調べると、装置の僅かな傾きや円盤や磁石そのものの微細な不均一さによって、ほんの少し軸対称が崩れていることが分かりました。

この微妙な対称性の乱れが、理論上ゼロになるはずだった渦電流を発生させてしまったのです。

研究チームはここで諦めません。

傾きや加工精度をさらに高め、磁石の並びと円盤の形をもっと理想的な軸対称に近づければ、この微小な摩擦すらほぼ完全に取り除ける可能性があると考えました。

実際に研究チームが行った数値シミュレーションや理論解析でも、完璧な軸対称状態で回転する円盤の内部では、定常的な渦電流は流れないという結果が示されています。

現実の実験で測定された結果では、最小の回転減速率は約5.5×10^-5 s^-1という極めて低い値になりました。

これは、円盤を回して放置したとしても、約5時間かけてようやく回転速度が最初の約37%にまで落ちるという非常にゆっくりしたペースの減速に相当します。

言い換えれば、ほんの数時間ではほとんど止まらないほど、回転摩擦が極限まで小さくなったのです。

研究チームはさらにこの実験結果を元に、理論的な推定を行いました。

その結果、「装置の傾きをマイクロラジアン(極めて小さい角度)単位で精密に制御できれば、減速率およそ1000億分の1ヘルツという驚異的な低レベルまで抑えられる」と試算しています。

もちろんこれは現時点ではあくまで理論上の見込みですが、将来的な技術の進歩で達成可能な数字として非常に興味深い結果です。

今回の研究が示した最大のポイントは、「完璧に対称な磁場と円盤の組み合わせ」というシンプルな工夫だけで、従来は必ず付きまとった渦電流の摩擦を理論上ほぼゼロにでき、実験でも極めて小さくできたということです。

完全に「摩擦ゼロ」には至っていないものの、回転体から摩擦という最大の敵を取り除く夢に大きく近づいたことは間違いありません。

今後さらに技術が向上し、「摩擦ゼロの世界」にどこまで近づけるのか、期待が膨らむばかりです。

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