新しい周期表が完成――陽子の数ではなく電子の数がベース
新しい周期表が完成――陽子の数ではなく電子の数がベース / Credit:Chunhai Lyu et al . arXiv (2025)
physics

新しい周期表が完成――陽子の数ではなく電子の数がベース

2025.04.29 17:00:15 Tuesday

教室の壁に掛かるお馴染みの周期表。

しかしその並び方を大胆に組み替えることで、時間計測の未来が拓けるかもしれません。

ドイツのマックスプランク核物理研究所(MPIK)で行われた研究によって、原子核中の陽子数ではなく残りの電子の数で元素を配置し直した全く新しい「周期表」が提案されました。

チームによれば、この方法で整理したところ、高電荷イオン(たくさんの電子を奪われて強い正電荷をもつ原子)の中に眠っていた700種類以上も「次世代の光格子時計の候補」が浮上したといいます。

従来の周期表からも多くの知見が得られたように、新たな周期表を作ると同時に大量の知識が一網打尽的に現れた訳です。

「新・周期表」は、これまでの周期表では見落とされていた原子の秘密を暴き出し、人類科学を新たな段階に高めてくれるのでしょうか?

研究内容の詳細は2025年4月16日に『arXiv』にて発表されました。

Periodic table for highly charged ions https://doi.org/10.48550/arXiv.2504.11237

従来の周期表の限界

従来の周期表の限界
従来の周期表の限界 / Credit:Canva

高電荷イオンとは、原子から多くの電子を剥ぎ取って非常に高い正電荷を帯びたイオンのことです。

例えばウランのように電子を何十個も持つ重い原子でも、極端に電離して残った電子がわずか数個になれば、それは高電荷イオンです。

高電荷イオンでは最も外側の電子殻がごっそり失われているため、通常の原子とは性質が大きく変わります。

しかし私たちが慣れ親しんだメンデレーエフの周期表は、元素を原子番号(陽子の数)で分類しています。

そのためこのままでは、電子をほとんど失った高電荷イオンの電子的性質(電子配置やエネルギー準位の構造)をうまく記述できないのです。

実際、原子番号順の従来の表では、高電荷イオンにおけるエネルギーの性質が埋もれてしまい、発見が得られにくくなっていました。

そのため近年になって科学者たちは、「元素の並べ方を変えれば見える世界も変わるのではないか?」と考えるようになりました。

既存の周期表から原子の性質の多くが読み取られるように、新たな周期表が作られれば人類がこれまで知らなかった知識が得られる可能性があります。

そこで生まれたのが、「残り電子数」に着目した新しい周期表です。

発表者の一人であるChunhai Lyu氏らは、電子が軌道に順々に収まっていく過程を基準に元素を並べ直しました。

言い換えれば、陽子の数ではなく電子の数で分類したのです。

これはちょうど、レゴブロックを一つずつ積み上げていくように原子を構築するイメージです。

1個の電子から始まり、2個、3個…と電子を追加してゆくと、電子配置ごとに特徴的な構造が現れます。

このように電子数に従って配置することで、異なる元素であっても等しい電子数を持つイオン同士(イソ電子系列と呼ばれます)が同じ列や行に並びます。

例えば「2個の電子を持つヘリウム」と「2個の電子を持つ炭素」は、ともに2という電子数で括られるといった具合です。

するとこの新しい「電子数を基準にした周期表」を使うと、いままで複雑で分かりにくかった高電荷イオン(電子を大量に失ったイオン)の性質が、意外にわかりやすいパターンとして見えてきました。

たとえるならば、難解な暗号が解けたように、高電荷イオンの「どんなエネルギー状態があるか」がスッキリ整理されるのです。

研究チームは、「この並べ方なら、高電荷イオンのエネルギーのしくみがぐっと単純化され、実験室のプラズマ研究や天体の観測データを読み解くのに役立つ」と話しています。

しかしより大きな発見は別にありました。

次ページなぜ電子数にもとづく周期表が革命的なのか?

<

1

2

3

>

人気記事ランキング

  • TODAY
  • WEEK
  • MONTH

Amazonお買い得品ランキング

スマホ用品

物理学のニュースphysics news

もっと見る

役立つ科学情報

注目の科学ニュースpick up !!