なぜ電子数にもとづく周期表が革命的なのか?

新しい周期表がもたらした最大の驚きは、超安定な遷移の大量発見でした。
つまり「原子の中のエネルギーが変わるときに出る振動」が、ものすごく安定した形でたくさん見つかったわけです。
これは原子時計にとって重要な発見です。
そもそも時計とは、何かが一定のリズムで振動するのを“刻み”として利用する仕組みです。昔ながらの振り子時計やゼンマイ式時計では「振り子」や「歯車」がそのリズムを担当し、クォーツ時計では「水晶振動子」が代わりをしています。
ところが「原子時計」では、原子がエネルギー状態を変える瞬間に出す“振動(光)”を使います。
原子があるエネルギー状態から別の状態へ移るとき、その変化は量子力学的にきわめて正確なリズムで起こるからです。ただし、どの原子遷移でもいいわけではなく、特に使いやすいのが「禁制遷移(きんせいせんい)」と呼ばれる、めったに起こりにくい現象です。
イメージで言えば極めてまれにしか動かないぶん、逆にすごく安定した周期を持ってる振り子と言えるでしょう。
このような振り子は短い時間の測定に使うのは不向きですが、長期に渡りブレが少なく非常に正確に時を刻むことができます。
たとえば、現在「世界で最も正確」とされる光格子時計は、ストロンチウムやイッテルビウム原子の禁制遷移を使うことで、数十億年に1秒しか狂わない精度を実現しています。
新・周期表はこの禁制遷移に「大量の新候補」の発見に貢献したのです。
電子数で整理した表を眺めると、ある特定の電子配置に属する高電荷イオンたちが一斉に、時計に使えそうな遷移を示すことが分かりました。
しかもその数が700種類にも及ぶことが判明します。
ある意味で原子時計用の振り子の大量発見とも言えるでしょう。
研究陣は「従来表では見落としていた超安定遷移が、まるで暗号が解けたように浮かび上がった」と表現しています。
まさに原子の秘めたメッセージが解読された瞬間と言えるでしょう。
この発見は、高精度時計の研究者にとって宝の山です。
さらに高電荷イオンは外界からの影響を受けにくい利点もあり、より正確で安定した時計の実現に期待が寄せられています。
今回提示された700超の候補からは、現在のストロンチウム光格子時計を凌ぐ究極の原子時計が誕生するかもしれません。