人気ドラマ『ゲーム・オブ・スローンズ』のキャラで検証
多くの人が実感しているように、私たちは現実の友人と同じように、架空のキャラクターにも友情や親近感を抱くことがあります。
その一方で、現実の友人と架空のキャラへの想いが”脳内の神経活動レベル”でどれほど類似しているかは知られていません。
そこで研究チームは今回、アメリカの人気テレビドラマ『ゲーム・オブ・スローンズ』に登場するキャラクターを使って、実験を行いました。
本作は2つの架空の大陸の支配者一族による政治的・軍事的対立を描いたファンタジー作品で、本国アメリカのみならず、世界中で熱狂的なファンを生み出しています。
研究主任のディラン・ワグナー(Dylan Wagner)氏いわく、本作には魅力的なキャラクターが数多く登場し、ファンは各々の好きなキャラクターに強い愛着を持つことができるため、今回の実験には最適だったという。
実験データは、2017年に放送されたシーズン7で収集されました。(本作は2019年5月19日に放送されたシーズン8の最終話をもって終了している)
実験では、同シリーズのファンである19人の男女を参加者とし、最初に日常的な孤独感を測定するテストを受けてもらいます。
次に、脳活動をfMRI(磁気共鳴機能画像法)装置でスキャンしながら、自分のこと・現実の友人のこと・『ゲーム・オブ・スローンズ』に登場するキャラクターのことを考えてもらいました。
(具体的なキャラクターは、ブロン、キャトリン・スターク、サーセイ・ラニスター、ダヴォス・シーワース、ジェイミー・ラニスター、ジョン・スノー、ピーター・ベイリッシュ、サンダー・クレゲイン、イグリットなど)
シーズン7に登場するキャラクターの相関図は、こちらのスター・チャンネルからご覧いただけます。
また参加者は事前に、どのキャラクターに最も思い入れがあるかもアンケートで報告しました。
孤独な人ほど「現実の友人」と「架空のキャラ」を考える脳活動の境界線が曖昧
チームが脳スキャンで注目したのは「内側前頭前皮質(mPFC)」と呼ばれる脳領域です。
ここは自分や他人のことを考えると神経活動が活発化することで知られています。
fMRI装置の中で、参加者は一連の名前をランダムに見せられて、その人物について考えるよう指示されました。
ときには自分自身の名前、ときには実際の友人の名前、そして『ゲーム・オブ・スローンズ』に登場するキャラクターの名前です。
それぞれの名前の下には「賢い」「哀れ」「信頼できる」などの特性が書かれており、参加者はそれが名前の人物を正しく言い当てているかについて考え、合致すると思えば「イエス」、不適切であれば「ノー」と答えます。
その際の脳活動を計測した結果、日常的な孤独感のスコアが高い人と低い人では、脳活動にハッキリとした違いが見られたのです。
まず、孤独感の低い参加者においては「現実の友人」と「架空のキャラ」を考えたときのmPFCパターンが明瞭に区別できました。
これは彼らが実在の人物と架空の人物との間に意識的な境界線を引いていることを示します。
ところが、孤独感の高い参加者を見ると、「現実の友人」と「架空のキャラ」を考えたときのmPFCパターンが非常に似ており、両者を明確に区別する境界線がほぼ存在しなかったのです。
これについてワグナー氏は「孤独な人々は、現実生活に欠けている社会的な繋がりを架空の人物に頼っている可能性がある」と指摘しました。
日常で孤独感の強い人たちは、現実の生活で得られない人とのつながりを、架空のキャラクターとのつながりを通じて埋め合わせようとしている可能性があるようです。
確かにアニメやドラマを見た際、気に入ったキャラクターと自分が対話する場面を想像することはあるでしょう。
また、話す友達がいないから「エア友達」を作って会話するという話題も耳にすることがあります。
話し相手がいない場合に、自分の近況や気持ちを頭の中の架空の人物に向けて話すというのは、割と誰もが経験する行動です。
こうした行動は孤立や孤独感を抱える人ほど頻繁に行うと予想できるため、これが彼らの脳内で架空のキャラクターと現実の人々との境界を曖昧にしている可能性があるでしょう。