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Credit: Băzăvan et al., Nature Physics (2026) / CC BY 4.0
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量子の「ゆらぎ」が四つ葉のクローバー型に、英オックスフォード大が世界初成功

2026.05.08 22:35:29 Friday

英オックスフォード大学の研究チームが、量子の位置と運動量の間にある「ゆらぎ」を「四つ葉のクローバー型」に変形させることに、世界で初めて成功しました。

量子の世界では、粒子の位置と運動量を同時にぴたりと決めることはできず、両者のあいだには決して消せない「ゆらぎ」が必ず存在します。

このゆらぎを、横軸に位置・縦軸に運動量をとった特殊な地図に描き出すと、ぼんやりとした雲のような形として現れます。

この「雲の形」を自在にデザインする技法は、量子コンピュータの精度向上や量子センサーの高感度化など、次世代の量子技術を一段押し上げる鍵だと考えられてきました。

しかし四つ葉のクローバーのような複雑な形にすることは、これまでどんな実験装置でも実現されていませんでした。

そこで研究者たちは「順番を変えると結果が変わる」という量子世界の性質を逆手に取り、この壁を突破しました。

研究の詳細は、2026年5月1日付で『Nature Physics』に掲載されています。

Squeezing, trisqueezing and quadsqueezing in a hybrid oscillator–spin system https://doi.org/10.1038/s41567-026-03222-6

不確定性原理の「ゆらぎ地図」

不確定性原理の「ゆらぎ地図」
不確定性原理の「ゆらぎ地図」 / Credit: Băzăvan et al., Nature Physics (2026) / CC BY 4.0

物理学において粒子の状態を知るのに重要なのは「今どこにいるか」(位置)と「今どれくらいの勢いで動いているか」(運動量)です。

たとえば、ボールが転がっているとすると、ボールの状態を完全に言い表すにも、この「今どこにいるか」(位置)と「今どれくらいの勢いで動いているか」(運動量)が必要になります。

ここではシンプルに、左右1方向にだけ転がるボールを考えてみます。

すると、この2つの必須情報は1枚の地図にまとめることができます。

横軸が「位置」を表し、右へいくほど、粒子が右寄りにいることを意味します。

純粋に左右の位置が横軸のメモリと一致します。

次に縦軸を「運動量」にします。

上へいくほど、粒子が勢いよく動いていることを意味します。

たとえば「真ん中あたりにいて、やや速めに動いている」ボールは、この地図の中央よりちょっと上あたりに1個の点として打てます。

「右端にいて、ほとんど止まっている」ボールなら、勢いがほとんどゼロなので地図の右端の横軸近くに点が打たれます。

普通のボールならば、このように地図のうえに1個の点をぴたりと打てます。

「今ここにいて、これくらいの速さで動いている」と正確に言えるからです。

ところが量子の粒子は、この地図のうえに1個の点を打つことが許されません。

「ハイゼンベルクの不確定性原理」と呼ばれる量子世界の根本ルールが、それを禁じているのです。

このルールをものすごく簡単にいうと「位置と運動量を同時にぴたりと決めることはできない」という決まりです。

そのため量子の粒子は、この地図のうえでは点ではなく「ぼんやりした雲」として描かれます。

「だいたいこのあたりにいて、だいたいこのくらいの勢いで動いている」としか言えないため、地図の上に雲のように広がってしまうのです。

量子力学のあやふやな部分をわかりやすく描いた「ゆらぎの雲」と言えるでしょう。

ちなみに厳密には、物理学者はこの地図を「位相空間」、そこに描かれる雲のような領域を「ウィグナー関数」と呼んでいます。

電子のような粒子の存在確率を描いた雲とは違いますが、量子だけが持つもう一段奥にある雲と言えます。

このゆらぎの雲は半分を削って「そっち側のゆらぎはゼロ」とすることはできません。

粒子の位置はどこにでも「あり得る」もので、粒子の運動量もどの速さでも「あり得る」からです。

少し難しく言えば、不確定性原理が、ゆらぎの雲の「面積」を一定以下に縮めることを宇宙に許さないからです。

しかし、雲を削って捨てることはできなくても、その形を変えることは可能です。

たとえば、まんまるの雲を横方向にギュッとつぶして、縦に細長い楕円形にすることができます。

こうすると、横軸方向(位置)のゆらぎが狭まる代わりに、縦軸方向(運動量)のゆらぎが広がります。

位置がどこか分かりやすくなる代わりに、どれくらいの勢いで動いているかは分かりにくくなるわけです。

雲の面積はほとんど変わらないまま、形だけが変わるのです。

これを物理学では「スクイージング(絞り込み)」と呼びます。

実はこの技術、すでに実用化されています。

ブラックホールの衝突を捉えてノーベル賞を取った重力波検出器LIGOでも、後にこのゆらぎの操作が導入され、感度の向上に役立てられています。

LIGOは、はるか遠くのブラックホールが衝突した際に生じる「空間のさざ波(重力波)」を検出する装置です。

重力波が通過すると、レーザー光の経路がほんのわずか──原子核の直径の1万分の1程度──伸び縮みします。

これを測りたい。

そこでLIGOは、さらに感度を上げるために、レーザー光の量子ゆらぎを絞り込む技術を取り入れました。

「測定の邪魔になるゆらぎ」を極限まで小さく絞り、代わりに「測定に影響しない方向のゆらぎ」に引き受けさせたのです。

ゆらぎの総量は変わっていません。

でも邪魔な方向のゆらぎだけを集中的に抑え込んだことで、より微弱な重力波の信号も、ノイズの中から浮かび上がるようになりました。

ある種の等価交換のようなことを行い、必要な精度を得るために不必要な精度を捨てたわけです。

「ゆらぎの形を変える」というのは、SFの話ではなく、もう現実に使われている技術なのです。

ところがゆらぎの偏らせ方には、じつは段階があります。

位置と運動量というゆらぎの交換は1:1が妥当で、横長棒か縦長棒のどちらしかないように思えます。

しかしそうではありませんでした。

風船をギュッとつまむことを想像してみてください。

2か所をつまむと、楕円形です。

これが2次の絞り込みでLIGOで使われているやつです。

3か所をつまむと、三角おにぎり型。

これが3次の絞り込みで超伝導回路という特殊な装置で、ごく最近やっと実現されました。

4か所をつまむと、四つ葉のクローバー型。

これが4次の絞り込みです。

段階が上がるほど、ゆらぎをより複雑な形に整形できます。

量子コンピュータの精度を上げたり、量子センサーの感度を高めたりする応用の幅が広がるわけです。

ただこれまで4次の絞り込みでゆらぎの雲を四葉のクローバー型にすることは理論的に予想されていましたが、誰も達成できていませんでした。

量子の世界で粒子をつまむ道具は「レーザー」ですが、このレーザーの波長は、つまみたい粒子が量子的にぼんやり広がっている範囲より何十倍も大きいのです。

いわば常に分厚い軍手をはめたまま作業するしかない状況で、つまむポイントが増えるほど(=段階が上がるほど)、力が粒子に上手く伝わらなくなっていきます。

極小の風船を何十重ねにもした軍手で操作するのと同じようなものです。

超伝導回路という別の装置では特殊な工夫で三角型まで届いた例もありますが、もっと複雑な四つ葉のクローバー型は、どの装置でも絶望的と思われていました。

さらに量子の世界は、目に見える世界の直感が通じないいくつもの問題が存在します。

「順番を変えると結果も違う」というものがその1つです。

たとえばコーヒーに砂糖とミルクを入れる場合、先に砂糖を入れても先にミルクを入れても、最終的な味は同じです。

順番は結果に影響しない。

これが私たちの日常です。

しかし量子の世界では、操作する順番を変えるだけで、結果が微妙に違うものになってしまうのです。

たとえるなら「量子コーヒー」の前に砂糖とミルクがあるときに「砂糖➔ミルク」と入れた場合と「ミルク➔砂糖」と入れた場合で、味が別物になってしまうことがあるわけです。

このような量子世界の順番に影響を受ける性質(非可換性)は、実験家にとって「邪魔者」でした。

ですが今回オックスフォード大学の研究者たちは「邪魔者を、味方にしてやろう」と考えました。

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