カオスの底に沈む「秩序の核」

カオスの中に「秩序の核」がある。
そういうと多くの人が難解な話をイメージしますが、決して難しい話ではありません。
たとえば駅の階段を思い浮かべてください。
毎日何千人もの人が上り下りしますが、一人ひとりがどこに足を置くかは予測できません。
右端を歩く人も左端を歩く人もいるし、2段飛ばしの人もいます。
個々の人々の動きはカオスで予測は付きません。
でも10年後にその階段を見ると、特定の場所だけがすり減っています。
真ん中よりやや右寄りの、ちょうど足を置きやすい位置。
何千人もの「予測不能な足取り」が積み重なった結果、「ここが最もよく踏まれる場所だ」という安定したパターンが浮かび上がっているのです。
このすり減りパターンこそが、カオスにおける「秩序の核」に相当するものです。
個々の動きはバラバラでも、「全体としてどこにどのくらいの確率で滞在するか」という統計的な地図は、時間が経っても変わりません。
カオスの日本語訳が「混沌」であることから私たちはどうしても「カオス=何の法則性もないめちゃくちゃ」と思いがちです。
しかしカオスとめちゃくちゃ――つまり完全なランダムは根本的に異なります。
完全なランダムとは、過去の履歴も物理法則も一切関係なく、次に何が起きるかが本当にどこにも書かれていない状態を指します。
実はそんなものは、この宇宙にはほとんど存在しません。
人類の最先端の技術をもってしても、完璧なランダムを人工的に生成することすら未だに難しいほどです。
カオスはそうではありません。
一見でたらめに見えても、その裏にはちゃんと物理法則が流れています。
だから長い目で見れば必ず傾向が現れる。
天気で言えば、来週の気温はわかりませんが「8月の東京はだいたい30℃前後」という傾向は毎年安定しています。
サイコロだって、次に何が出るかはわからなくても、1万回振ればどの目もほぼ6分の1ずつ出るという「傾向」が見えてきます。
個々はバラバラなのに、全体を長い目で見ると安定したパターンが浮かび上がる。
それがカオスの神髄です。
数学ではこれを「不変測度」と呼びますが、ここではカオスの海の底に沈む「秩序の核」と呼ぶことにしましょう。
研究チームが見つけたかったのは、まさにこれでした。
では、この秩序の核をどうやって取り出すのか。
ここに量子コンピュータが登場します。























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