カオス系の中に「秩序の核」が存在することを量子AIが発見――実証にも成功
カオス系の中に「秩序の核」が存在することを量子AIが発見――実証にも成功 / Credit:Canva
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カオス系の中に「秩序の核」が存在することを量子AIが発見――実証にも成功 (2/5)

2026.04.27 18:45:29 Monday

前ページカオスの底に沈む「秩序の核」

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なぜ量子コンピュータだと秩序の核を取り出せるのか

なぜ量子コンピュータだと秩序の核を取り出せるのか
なぜ量子コンピュータだと秩序の核を取り出せるのか / Credit: IQM

― AIの限界

「予測なら単にAIにやらせればいいじゃないか?」

と思う人もいるでしょう。

確かにAIの進歩により、下手に人間が予測するよりAIのほうが正解率が高いという結果を、人間は受け入れるようになってきました。

天気予報も直近の予報ならば、AIは優れた精度を発揮します。

同様に他の種類のカオス問題でも、AIは短期の予測を得意としてきました。

しかし問題は、その結果を「次の出発点」にして、さらにその先を予測し……と何百回も繰り返す場面で起きます。

料理のレシピを伝言ゲームで回すようなもので、1回ごとに少しずつ歪み、10人目にはまったく別の料理になっている。

なぜそうなるかというと、従来のAIは「1歩先を当てること」に集中して訓練されるため、「この系が長期的にどんな統計パターンに従うか」という全体像を知らないのです。

先ほどの階段の例で言えば、「ある体重、ある年齢、ある歩き方をしている次の1人が、どこに足を置くか」を当てる練習ばかりしていて、「10年分のすり減りパターン」を見たことがない状態です。

UCLのピーター・コベニー教授はこう語っています。

「完全なシミュレーションには数週間かかり実用に間に合わない。かといってAIモデルでは長期の信頼性が低い。これが長年の課題でした」

今回の研究でも検証のために最先端のAIにカオス問題の長期的な予測を行わせましたが、結果は悲惨でした。

― 量子コンピュータの出番

量子コンピュータの出番
量子コンピュータの出番 / Credit: Maida Wang et al., Science Advances(2026)

そこで研究者たちが取り出したのは量子コンピューターでした。

なぜ普通のコンピュータではなく、量子コンピュータが必要だったのでしょうか。

まず、秩序の核(不変測度)がどんな形をしているかを理解する必要があります。

先ほどの階段のすり減りパターンには、実は厄介な性質があります。

「1段目の右端がよく踏まれると、なぜか3段目の左端もよく踏まれる」というような、離れた場所同士の不思議なつながりが無数にあるのです。

流体のカオスでも同じことが起きます。

ある場所の渦の動きが、遠く離れた別の場所の流れに影響を与える。

研究チームはこれを「量子もつれによく似た構造」と表現しています。

従来のAIは、こうした遠く離れた場所同士のつながりを学ぶとき、場所ごとの情報をひとつずつ拾い集めて、それらの間の関係を膨大なパラメータで1本ずつ記述しなければなりません。

東京と大阪の天気の相関、東京と福岡の相関、大阪と福岡の相関……と、すべてのペアを個別に書き出すようなものです。

これは極めて困難でした。

量子コンピュータは、未来を直接予測するわけではありません。

しかし、カオスデータの中に流れる隠れた統計パターンを「秩序の核」として取り出すことには長けていました。

つまり量子コンピュータ上の量子回路に、過去のカオスデータの統計パターンを繰り返し学習させると、その回路自体が「秩序の核」の圧縮表現に仕上がるのです。

イメージとしては、100時間分の交響曲を聴いて、そこに繰り返し現れるメロディの「骨格」だけを1枚の楽譜に凝縮するようなもの。

個々の演奏(=カオスの軌道)は毎回違いますが、底に流れる音楽的な構造(=不変測度)は共通しています。

量子回路はその構造だけを抜き出したのです。

結果として従来のAIでは10万以上ものパラメーターが必要なものも、量子回路はわずか15個の量子ビットとわずか300個程度のパラメーターで秩序の核を丸ごと捉えることができました。

同じ品質の表現を従来のコンピュータで再現しようとすると、パラメータ数が数百倍に膨れ上がり、それでも長期予測では量子版に及びませんでした。

しかし、なぜ量子コンピュータだとこの圧縮がうまくいくのでしょうか?

詳しいことはまだ不明ですが、研究者たちは秩序の核が持つ「遠く離れた場所同士が連動する構造」が、量子もつれの性質と相性がよかったからだと考えています。

量子コンピュータには「量子もつれ」という特技があります。

複数の量子ビットが、距離に関係なく互いに強く連動する性質です。

この性質のおかげで、量子コンピュータは「遠く離れた場所同士のつながり」を自然に、しかもコンパクトに表現できた可能性があるのです。

研究チームはこの量子コンピューターを使って導かれた圧縮された「秩序の核」を「Q-Prior」と名付けました。

Q-Priorの使い方はカーナビに似ています。AIの予測がカオスの秩序パターンからずれそうになると、「この系はそういう統計パターンにはならないよ」と軌道を修正してくれるのです。

しかも量子コンピュータを使うのはQ-Priorを作る最初の1回だけ。予測の段階では普通のコンピュータだけで動きます。

次はいよいよ、この量子AIによる「秩序の核」の実力を実証する実験を見ていきます。

次ページ3つのカオスに挑む――「縞模様」「渦巻き」「ルールなしの乱流」

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