順序が違うと結果が違うのはなぜか?

オックスフォード大の研究者たちの発想の転換を理解するには、なぜ量子の世界では「順番が違うと結果が違う」のかを、少しだけ知っておく必要があります。
難しい話に思えますが、本質は極めてシンプルです。
順番が違うだけで結果が違うということは、裏を返せば、量子は「どちらの順番で操作されたか」という情報を、どこかに保存しているということです。
(※厳密には『2つの操作の合成が単純には入れ替えられない』という代数的な性質)
量子の位置と運動量の広がり具合を示す2軸は目に見えるサイズのボールの状態を描くには十分ですが、量子はそれだけでは描けません。
スピンの向き、エネルギーの分配、波の位相……地図には載りきらない「隠れた軸」が、実はたくさんあります。
物理学者はこの「隠れた軸まで全部含めた空間」を高次元空間(ヒルベルト空間)と呼んでいます。
高次元空間というとすぐにお手上げ感がでてきてしまいますが、「粒子の状態を正確に決めるのに、2つや3つではなく、もっとずっとたくさんの数値軸が必要だ」という意味です。
結婚の条件が「収入・身長・学歴」の3軸だけでなく、外見や性格といった多数の要素で構成されているように、量子の状態も多数のパラメーターで構成されています。
数学の世界では3つの数値で決まるなら3次元、10個の数値が必要なら10次元です。
そして量子の粒に「力を加える」「レーザーを当てる」といった操作は位置や運動量だけでなく隠れた軸も同時に影響を及ぼします。
そのため「A→B」なのか「B→A」なのかという順番が違うだけで、2軸の地図の上では違いがわからなくても、隠れた軸のうえで大きな差が生まれるのです。
たとえるなら、料理で「焼いてから切る」のと「切ってから焼く」は、「肉に加熱と切断を1回ずつ行った」という粗い情報だけ見れば同じです。
料理を1度もしたことがない人は、順番の違いの重要性に気付きません。
しかし「断面の状態」「火の通り方」「食感」「香り」といった評価軸を加えた途端、前者はじっくり火を通してから薄く切り分けるローストビーフ、後者は一口大に切ってから強火であぶる焼肉になります。
順番が違うだけで、まったく別の料理になるのです。
量子の世界でも同じことが起きています。
操作の順番は、私たちの目に見える2軸の地図には映らなくても、隠れた軸のうえでは確実に大きな差をつくっているのです。
単純に見ればこのような現象は「邪魔」に思えますが、仕組みを知れば利用できる可能性も見えてくるでしょう。
筆頭著者のバザヴァン博士自身「実験室では、非可換性は余計な動きを生む”邪魔者”とみなされがちです。しかし私たちは逆に、その特徴を利用して強い量子相互作用を生み出しました」と述べています。



























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