2つの力から全く新しい効果がうまれた

研究者たちは対象となる粒子(ストロンチウムイオン)を電場の中に閉じ込め、そこにレーザーで2種類の異なる力を同時にかけ続けることにしました。
この2つの力は「順番が違うと結果が違う」ことが知られている、非可換な組み合わせです。
1つ1つの力は、地図のうえで、ゆらぎの雲をただ押し動かすだけの単純な操作です。
ところが2つの非可換な力を同時にかけ続けると、地図には映らない隠れた軸のうえで、差がどんどん蓄積されていきます。
テーブルの上ではニコニコして様子に変化がないのに、見えないテーブルの下では激しい足蹴り合戦が続いているようなものです。
やがてこの隠れた蓄積が、私たちの見える2軸の地図のうえにも波及してきます。
元の2つの力には含まれていなかった、まったく新しい効果が地図の上に現れるのです。
そうしてレーザーの周波数を選んで4次の効果を取り出すと、ゆらぎの雲も形を変え始め、最終的に測定された姿は四つ葉のクローバー型でした。

2つの力(非可換)を同時にかけ続けるだけで、どちらの力にも含まれていなかった新しい効果が設計どおりに現れた──これは日常ではほとんど見られない、量子の世界独特の現象です。
もうひとつ、論文が示した驚くべき事実があります。
同じ実験装置のまま、レーザーの周波数を変えるだけで、楕円(2次)→三角(3次)→クローバー(4次)を自在に切り替えられるということです。
これは影絵に喩えれば、「手の形を変えるだけで、犬にもウサギにも鳥にも変えられる」ようなものです。
しかも、その手は隠れた軸の空間に伸びていて、私たちには直接見えない。
見えないまま、影の形だけを頼りに手を動かして、望みどおりの形を作ってみせた。
論文の最後にはこう記されています。
「この手法は、達成可能な相互作用の次数に原理的な上限がない」
クローバーの先には、もっと複雑な形が待っている可能性もあるのです。
さらに論文は、この手法が量子コンピュータの誤り訂正や、素粒子物理学で扱う「格子ゲージ理論」のシミュレーションなど、これまで手が届かなかった応用領域につながる可能性があるとも述べています。
2軸の地図の上の影を自在に操れるようになったことで、隠れた軸に眠っていた量子の性質を、初めて実験室で呼び出せるようになるわけです。
研究を主導したスリニヴァス博士は「私たちは、量子物理の未踏の領域を探索できる新しいタイプの相互作用を実証しました。これから何が見つかるか、本当に楽しみです」と述べています。



























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