「柔らかさ」と「硬さ」を切り換える人工筋肉の開発
人間の筋肉のように自由に伸び縮みし、力を発揮できる素材。それが「人工筋肉」です。
人工筋肉は、ロボットアームの“しなやかさ”やウェアラブルスーツの“動きやすさ”、そして手術用の極小ロボットなど、さまざまな先端技術の根幹を担うと注目されています。
従来の人工筋肉には、多種多様な技術が投入されてきましたが、その多くは「柔らかさ」と「力強さ」の両立ができませんでした。
素材にはそれぞれ一長一短があり、「大きく伸びるが力が弱い」「力が出せても硬く伸びにくい」といったトレードオフが避けられなかったのです。
たとえば、ゴムのように大きく伸び縮みする素材は、そもそも柔らかすぎて力を伝えきれません。
一方、力を出せる“硬い”素材は、筋肉本来の“柔軟でしなやかな動き”が苦手です。
そこでUNISTの研究チームは、この課題を打破するために「Dual Cross-Linking(二重のネットワーク構造)」という画期的なアプローチを採用しました。
人工筋肉の本体となる高分子材料の内部に、「化学的な結合」と「熱で切り替えられる物理的な結合」という2種類の結びつきを同時に設けたのです。
まず共有結合により、全体の強度と安定性を支えます。
また可逆的な結晶化を採用し、温度の変化で自在に“固まったり・溶けたり”することで、人工筋肉の柔軟性や形状記憶能力を担うことにしました。
さらに、表面を特殊処理したネオジム磁石由来の微粒子を材料内に均一に分散させました。
この磁性粒子のおかげで、人工筋肉は外部から磁場をかけて遠隔操作やプログラム的な動作制御までできるようになっています。
この「二重ネットワーク+磁性粒子複合」という独自の設計によって、 「ゴムのように柔らかく大きく伸び、必要なときには鋼鉄のような強さで重い物を支える」ことが可能になりました。
では、この新しい人工筋肉はどれほどの性能をもっているのでしょうか。