【SNSの正体を探る】コメント量と実際の人数は一致しない
これまでのネット利用状況を調査した研究では、批判的・攻撃的な投稿、ヘイト活動をする人は全体のごく一部でしかないということが繰り返し報告されています。
しかし、そうは言われても実際SNSなどで、猛烈な批判や攻撃的な投稿を目にすると、世の中にそんな意見の人が大勢いるように感じてしまうものです。
そこで今回の研究は、利用者の実態とは別に、世間の人々が自身の感覚として「ネットで有害な投稿をする人がどのくらいいると感じているのか?」という点に着目しました。
研究チームは1,000人近くのアメリカ人を対象に、Redditにおける「極めて有害な(トキシックな)コメント」や、Facebookで「フェイクニュースの共有」を行うユーザーが全体の何パーセントを占めると思うか、推定を求めました。
その結果、人々は平均して「Redditユーザーの約43%が有害なコメントを投稿している」「Facebookユーザーの約47%がフェイクニュースを拡散している」と考えていることが明らかになりました。
つまり、一般の感覚では、ネット利用者の半数近くが誹謗中傷や攻撃的な発言、偽情報の共有といった有害な投稿をしていると認識されていたのです。
しかし、プラットフォームの実データを分析すると、現実は全く異なっていました。
実際にRedditで極めて有害な投稿を行っていたのは全アカウントのわずか3%程度であり、Facebookでフェイクニュースを共有していたのも約8.5%に過ぎませんでした。特にフェイクニュースを頻繁に共有するようなユーザーに限れば、その割合は0.5%未満でした。
これは私たちが実態の数倍~10倍近く、悪意のある人の数を過大評価していることを示唆しています。
ここで多くの人が抱くであろう疑問は、「そもそも一般人と研究者で『有害』の定義が違っていたのではないか?」という点です。
もし一般の人々が些細な言葉遣いまで「有害」と捉えていれば、このギャップは説明がつきます。しかし、研究チームが行った追加実験では、この可能性は否定されました。
参加者に実際のコメントを見せて判定させたところ、AIや研究者と近いレベルで有害性を識別できていました。つまり、人々は何が「毒」であるかは正しく理解しているにもかかわらず、その「毒」を撒いている人数だけを見誤っていたのです。
なぜこのような極端な認識のズレが生じるのでしょうか。その背景には、インターネット特有のコンテンツ生成構造があります。
第一に、1人が大量に投稿しているのか、大勢が似たような投稿を行っているのかを区別しづらいという問題です。
Redditでは、毒性の高い投稿をしたアカウントは全体の約3%に過ぎませんでしたが、彼らは非常に活動が活発で、なんとこの3%のユーザーで、有害・無害を問わずReddit上のコメント全体の約3分の1を生み出していました。
つまり、ごく少数でも驚くほど大量の投稿をするユーザーがいると、タイムライン上でその主張の存在感が大きくなり、「こんな投稿をする人が大勢いる」と錯覚しやすくしてしまうのです。
第二に、SNSのアルゴリズムは刺激的な投稿を目立たせる特性があります。議論を呼ぶ内容ほど上位に表示されるため、有害な投稿が目に入りやすくなります。
第三に、人間の脳は否定的な情報ほど記憶に残りやすい「ネガティビティ・バイアス」を持っています。そのため、有害な投稿ばかりが心に残り、実際より多く見えやすくなります。
こうした複数の要因が重なることで、「ごく少数の活動的ユーザーの投稿」が「あたかも多くの人の行動」であるかのような印象をつくり出してしまうのです。


























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