選択的繁殖で「熱に強いサンゴ」が生まれた!
チームは今回、インド太平洋西部に広く分布するサンゴの一種「コユビミドリイシ(学名:Acropora digitifera)」を対象としました。
実験ではコユビミドリイシのコロニーを2つのグループに分けて、それぞれの対照群と比較します。
1つはサンゴを短期間の強烈な熱波を想定した環境にさらすグループです。
ここでは水温を最初に設定した30℃から10日間でプラス3.5℃も高めます。対照群は10日の間、同じ水温30℃に保ち続けます。
もう1つはサンゴを自然の海洋熱波によく見られる長期間でゆっくりとした熱ストレスにさらすグループです。
ここでは水温を最初に設定した30℃から1カ月かけてプラス2.5℃までゆっくりと高めます。対照群は1カ月の間、同じ水温30℃に保ち続けます。
次に両グループの熱にさらしたサンゴの中で、死ぬことなく生存したサンゴだけを選抜し、その個体同士をかけ合わせました。
そして誕生した次世代のサンゴの熱耐性を調べた結果、熱にさらされなかった対照群のサンゴに比べて高い熱耐性を示しただけでなく、自らの親世代よりも耐熱性能が向上していることがわかったのです。
同じ変化は短期の強烈な熱波にさらしたグループと、長期の適度な熱波にさらしたグループの両方で確認できています。
この結果は選択的繁殖により「熱に強い形質」をサンゴの子孫に受け継がせながら、なおかつ継続的な繁殖によって世代を追うごとに熱耐性をさらに強められることを示唆するものです。
これは選択的繁殖で「熱に強いサンゴ」を生み出せることを示した世界初の成果となっています。
その一方で興味深いことに、短期の強烈な熱波にさらされて熱耐性を獲得したサンゴのグループは、長期の緩やかな熱ストレスに対する熱耐性を示しませんでした。
これは逆もまた然りで、長期の緩やかな熱暴露で熱耐性を獲得したサンゴは短期の強烈な熱波には耐えられなかったのです。
つまり、それぞれの熱ストレスの条件下で獲得された熱耐性は、遺伝的にそれぞれの熱環境に対応した能力であると考えられます。