背景音は集中力を下げるのか

静かな場所で集中して新しいことを学んでいるはずなのに、なぜか頭に入ってこない、そんな経験、ありませんか?
特に、ちょっとした「音」が気になって、思考が中断されてしまうことは少なくありません。
この「音による集中の阻害」は、認知科学の分野で長年研究されてきたテーマです。
オフィスでの電話の話し声、カフェのざわめき、あるいは工事の騒音といったさまざまな環境音。
これまでの多くの研究で、これらの音が、私たちの注意を散漫にさせ、読書の理解や計算作業、記憶といった認知的なパフォーマンスを低下させることが報告されています。
たとえばイリノイ大学のローレン・エンバーソン(Lauren Emberson)氏らの研究では、カフェや公共交通機関などでの他人の電話の会話が認知パフォーマンスに与える影響を調べています。
実験の結果、片側の話者の声だけ聞こえる電話の会話は、両者の声が聞こえる会話と比べて、注意力と記憶課題のパフォーマンスを有意に低下させたことが分かりました。
どうやら私たちは会話の意味や流れを無意識に予測しようとする傾向があり、片方の話者の声が聞こえるような状況では、相手側の発言が聞こえず文脈が不明瞭なため、会話の予測により多くの注意資源や認知的努力を割き、他の課題(記憶や注意)に集中できなくなるのです。
一方で、音は必ずしも「集中を阻害する邪魔者」ではありません。
ホワイトノイズや自然の音(焚き火の音や鳥のさえずり、雨音など)、さらにはカフェの環境音といった特定の音は、かえって集中力を高め、作業効率を向上させる効果があるという研究も存在します。
これらの音は、周囲の気になる雑音を打ち消したり、適度な刺激となって脳を覚醒させたりすることで、作業に没頭しやすい環境を作り出すと考えられています。
近年、日常的に耳にするあの音が意外にも注意を奪い、集中力を下げていたことが明らかになりました。
それは咳や鼻をすするなどの病気を連想させる音です。
ニューヨーク州立大学オネオンタ校のキャリー・フィッツジェラルド氏 (Carey Fitzgerald) らの研究チームは、周囲の咳や鼻をすする音が認知活動にどのような影響を与えているのかを調べました。
フィッツジェラルド氏は数年前の冬場での講義でテストを実施した際に、学生が咳やくしゃみ、鼻をすする音の出所を目で追っている様子から着想を得て、この仮説を検証することにしたのです。