魚を貝殻に追い込み、そのまま「器」にして食べる
今回観察されたのは「シェリング(shelling)」と呼ばれる特殊な狩猟行動です。
イルカは小魚を追いかけ、大きな空の巻き貝の殻へ逃げ込ませます。
そして貝殻の口に自分の吻を差し込み、そのまま殻を水面まで持ち上げます。
最後に貝殻を傾けたり振ったりすることで、中の水と一緒に魚を自分の口へ流し込むのです。

今回利用されていたのは、バイラーシェル(Melo amphora)という大型の巻き貝でした。
貝殻は単なる餌ではなく、魚を閉じ込めて口まで運ぶための「道具」として利用されているため、シェリングはイルカの道具使用の一例と考えられています。
実際の映像がこちら。
ただし、どのイルカでも簡単にできるわけではありません。
空の大きな貝殻がどこにあるかを知り、魚をそこへ追い込み、さらに殻をうまく操作する必要があるからです。
これまでシェリングが科学的に報告されていたのは、西オーストラリア州のシャーク湾だけでした。
ところが研究チームは2025年、クイーンズランド州ハービー湾のグレート・サンディ海洋公園で、2回にわたってシェリングを観察しました。
7月6日には「スティーヴィー・ニックス(Stevie Nicks)」と呼ばれる成体メスが貝殻を操作する様子が撮影されました。
さらに調査を進めると、地元の観光船が2013年と2019年にも同じ地域でシェリングらしい場面を撮影していたことが判明しました。
つまり、この行動は最近突然現れたのではなく、少なくとも10年以上前から東海岸のイルカたちの間に存在していた可能性があります。
シェリングは次世代に継承されている?
研究でもっとも興味深かったのは、2025年10月1日に観察された母子の行動です。
「マセラティ(Maserati)」と呼ばれる母イルカが、魚の入ったバイラーシェルを水面まで持ち上げました。
ところが魚が殻から逃げ出したため、母イルカは貝殻を落とし、魚を追いかけていきました。
すると、その数分後です。
子イルカの「ベントレー(Bentley)」が、母親が落とした同じ貝殻を拾い上げ、水面まで持ち上げました。
研究者によると、子どもは母親と同じような方法で貝殻を保持していたといいます。
この場面が重要なのは、シェリングという技術が母から子へ伝えられている可能性を示しているからです。

こうした親世代から子世代への行動の伝達は「垂直的社会伝達(vertical social transmission)」と呼ばれます。
これまでシャーク湾の研究では、シェリングは主に仲間同士の社会的ネットワークを通じて広がる可能性が注目されていました。
今回の観察は、それに加えて母親を見ながら子どもが技術を習得する経路も存在するかもしれないことを示しています。
ただし、ここには注意が必要です。
今回確認されたのは限られた母子の観察例であり、この映像だけで「母親が子どもにシェリングを教えた」と証明されたわけではありません。
子イルカが以前から技術を学んでいた可能性もあれば、単に母親が落とした貝殻に興味を持って操作した可能性もあります。
論文でも「垂直的社会学習の可能性を示す証拠」と慎重に位置づけられており、技術がどのように伝わるのかを明らかにするには、今後さらに多くの母子を長期的に観察する必要があります。
それでも今回の発見は、貝殻を使った狩猟法がシャーク湾だけの特殊な行動ではないことを示しました。
遠く離れた東西のイルカが同じような道具使用を行っていることは、イルカが環境の中から使えるものを見つけ、新しい狩猟法を生み出せる柔軟な知性を持つ可能性を物語っています。
そして、その技がほかのイルカを観察することで受け継がれているのだとすれば、海の中にも人間とは異なる形の「文化」が存在しているのかもしれません。





















「幸島のイモ洗い」は、まねっこを始めたサルが未熟でも、それなりにイモを食べることもでき、イモに味がついて正の報酬が学習初期から享受できそうです。
でも、記事のイルカの行動は、「貝への餌魚の追い込み」「貝から逃がさないよう口元に運ぶ」「餌魚を逃がさないよう貝を水面上へ運ぶ」「追い込んだ餌魚を口に入れる」といった難しいプロセスを踏んでいます。貝を使わずに餌魚を捕獲する方法に比べ、学習初期は効率が悪かったり失敗も多いと予想されます。それでも、学習がセイルするのは、サルにはない、もっと知的な要因(あそびとかかっこいいとか)があるのでしょうか?