地球には、生命が「始まれない」時代があった

生命の始まりといえば、たいてい同じ絵が浮かびます。
原始の海に有機物が溶け込んだスープがあり、そこに雷が落ちて、最初の生き物のもとができる。
けれどもその絵には、肝心の「いつ」が入っていません。
生命が地球に現れた時期の見積もりは、38億年前ごろとする説から45億年前近くまでさかのぼる説まで、7億年分もの幅があります。
理由の一つは、証拠の側にあります。
40億年より前の地球の岩は地殻が作り替えられる過程でほとんど失われ、当時をたどる手がかりは、熱に強い小さな鉱物の粒(ジルコン)などごくわずかしか残っていません。
もう一つの理由は、当時の地球そのものにあります。
45億1000万年前に月をつくった巨大衝突が起きたあと、地球の表面はマグマの海になりました。
その後も、直径500キロを超えるような岩塊が次々と落ちてきます。
恐竜を絶滅させた小惑星よりけた違いに大きな天体です。
これほどの衝突が起きると、海は蒸発して水蒸気の大気に変わり、地表の温度は300℃を超えたまま数千年も下がりません。
さらに、砕けて舞い上がった高温の岩が数百メートルの厚さで降り積もり、地下に隠れていたとしても焼かれてしまいます。
生き物どころか、生き物の材料さえ残れない状態です。
月のクレーターの記録から復元された衝突の歴史では、こうした「海を蒸発させる衝突」は44億年前ごろまで続いたとされてきました。
しかも熱は、上から降ってくるだけではありません。
当時のマントルは1700℃を超え、内部の熱が地表近くまで盛んに運ばれていました。
深く潜れば涼しい、という逃げ場が、この星にはなかったのです。
しかしこの地獄のような環境も徐々に落ち着いていきます。

巨大衝突を起こすような小惑星は時と共に徐々に減っていき、地球が安定して海を維持できる時代になりました。
地球が生命の揺り篭としての役割を果たせるようになったわけです。
その最初の一歩として、多くの研究者が有力視しているのがRNAワールド仮説です。
いまの生き物では、DNAが生命の設計図で、設計図をもとに作られたタンパク質が建材となり、生命を形作ります。
しかし最初期の生命では、RNAが遺伝情報を記録しながら、自分自身のコピーづくりまでこなしていたと考えられています。
DNAが主役になる前の、この「RNAで回る生命の時代」がRNAワールドです。
ただそのRNAワールドがいつ始まったのかは諸説があり44億6000万年前から42億6000万年前、あるいは44億5000万年前から39億年前と5億年以上の幅があったのです。
そこで論文の筆頭著者オレグ・アブラモフ氏らの研究チームは、降りそそぐ天体の熱で地球の表面近くがどう熱せられ、どう冷えていったのかを直接計算し、生命の部品が壊れずにいられる場所がいつ現れたのかを突き止めることにしました。

























