RNAワールドは約43億3000万年前に出現した

地球はいつ頃からRNAワールドを始められるくら穏やかになったのか?
答えを得るため研究チームは、生まれたばかりの地球の表面近くをコンピューターの中に立体的に再現し、そこへ10億年分、数千〜約2万個の天体を降らせました。
どれだけの天体が降ったかは、クレーターがそのまま残る月の記録などから見積もっています。
そのうえで地下の浅い場所の温度を追いかけ、生き物が生きられる上限の目安として研究チームが置いた110℃を下回る場所が、いつ、どれだけ現れるかを調べました。
すると最初の1億年ほどは、やはり過酷であることが見えてきました。
初めのころは、海を丸ごと蒸発させる規模の衝突が1000万年に6〜7回も起こりうるペースで、地球の表面をつくる岩盤の7割ほどが同時に溶けていた時期もありました。
このころの地球では、ある場所がいったん冷えても安心できません。
冷えて穏やかになった場所も、次の衝突の熱や、空から降ってくる灼熱の岩によって、また煮え立ってしまうからです。
せっかくRNAの材料が集まりかけても、そのたびに壊されて振り出しに戻ります。
「生命以前の化学に必要なのは、衝突と衝突の合間のつかの間の涼しさではなく、途切れずに安定した温度です。44億年前より前は、冷えた場所も後の衝突で再び熱せられ、時計がリセットされ続けていたのです」とアブラモフ氏は述べています。
流れが変わったのは、約44億年前です。
海を蒸発させるほどの衝突は1000万年に0〜1回ほどのまれな出来事になり、地下の浅いところに、一度冷えたら二度と110℃を超えない場所が現れ始めます。
この「二度と滅菌されない場所」は衝突が減るにつれて広がり、42億5000万年前には浅い地殻の半分を超えました。
ここまでなら、天体衝突は生命の敵でしかありません。
隕石といえば恐竜を絶滅させた悪役、というのが定番のイメージです。
しかし衝突は、壊すだけでなく熱も置いていきます。
熱く砕けた岩のすき間に水がしみこむと、地下を温水がめぐる仕組み(熱水系)ができあがります。
水と熱と化学エネルギーがそろうこの場所は、生命につながる化学反応の舞台の候補として、昔から注目されてきました。
実際、恐竜を滅ぼした隕石が残したメキシコのチクシュルーブ・クレーターでも、衝突のあと地下を温水がめぐり、地表近くが長く温かいまま保たれていたことが分かっています。
衝突は激しすぎれば生命を焼き尽くしますが、適度なら揺り篭を作れるというわけです。
計算では、こうした熱水のオアシスが寄り集まった群れの数は43億年前ごろに最も多くなり、その後は衝突が減るのに合わせて少しずつ減っていきました。
衝突が減ることは、衝突がつくる熱水のゆりかごが減ることでもあったのです。
そこでアブラモフ氏は、衝突がもたらす有害な影響、つまり温度の上昇による生体分子の劣化と、熱水系の形成という生命にとって好ましい影響の両方を比べました。
結果、その交差点として43億3000万年前が浮かび上がりました。
穏やかな場所が二度と焼かれずに済むほどには、衝突は収まっており、それでいて衝突がつくった熱水のオアシスはまだ各地に残っているという2つが同時に成り立っていた最適な時期(スイートスポット)です。
さらに地温の上がり方が、衝突に支配された状態から、地球内部からゆっくり伝わる熱が主役の状態へ切り替わるのも、この年代にあたります。
そのため研究者たちは、生命誕生につながる「RNAワールド」の始まりの最適な時期が43億3000万年前であると結論しました。

























