カムチャッカ大地震の津波予測/Credit:NOAA Center for Tsunami Research
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カムチャッカ大地震で、衛星が巨大津波の詳細な姿を初めて捉える

2025.12.06 21:00:04 Saturday

2025年7月、ロシア・カムチャッカ半島沖で発生したマグニチュード8.8の大地震は、日本でも津波警報が発表されました。

東日本大震災の記憶が残る日本では、スマートフォンの警報音に思わず身構えた人も多かったはずです。

しかし実際に到達した津波は比較的小さく、「どうしてもっと正確に予測できないのだろう?」という疑問を抱いた人もいるかもしれません。

理由のひとつは、津波が“巨大なのに見えにくい”という、本質的にやっかいな性質を持っていることです。

実際、海上を進む津波の高さはわずか数十センチ程度しかなく、船から見ても分からないほど静かです。その一方で、津波の広がりは数千キロメートル先の陸地まで、太平洋全体を広範囲に伝わっていきます。

そのため実際に海上を伝わる津波の様子を正確に捉えたデータというものは、これまであまり存在していなかったのです。

この長年の課題に対して、新たな道を開いたのが一基の人工衛星です。

アメリカ航空宇宙局(NASA:National Aeronautics and Space Administration)とフランス国立宇宙研究センター(CNES:Centre National d’Études Spatiales)が共同開発した地球観測衛星 SWOT(Surface Water and Ocean Topography) は、河川・湖・海の水面の高さを“広い範囲で、細かく”測るための衛星です。本来は気候変動や水循環の研究に使うためのものですが、この衛星が持つ高い分解能が、津波の観測にも“直接的な視点”を与えることになりました。

ちょうどカムチャッカ半島地震の直後、このSWOT が津波の真上を通過しており、太平洋を伝わる津波の“形そのもの”を捉えるという、これまでに例のない観測が偶然実現したのです。

そしてアイスランド大学(University of Iceland)や米オレゴン大学(University of Oregon)などの研究チームがこのデータを詳細に解析したことで、津波がどのような模様を描きながら海を伝わっていくのかが明らかになったのです。

この研究の詳細は、2025年11月に科学雑誌『The Seismic Record』に掲載されています。

SWOT Satellite Altimetry Observations and Source Model for the Tsunami from the 2025 M 8.8 Kamchatka Earthquake https://doi.org/10.1785/0320250037

海の上では“巨大な津波”が見えない

津波は陸に押し寄せるときには大きな被害をもたらしますが、太平洋の中央では姿を大きく変えます。

そもそも「津波(つなみ)」という言葉は、港を意味する“津(つ)”と“波(なみ)”を組み合わせた日本の古い呼び名に由来します。

昔の漁師たちの間では、沖の方で漁をしているときには特に異変を感じなかったのに、港に戻ってみると家屋が流され、大きな被害をもたらしているという謎の大波の存在が伝えられていました。

この港だけに被害をもたらす見えない大波を、津波と呼んだのです。

これは、津波の本質をよく表しています。津波は沖合を進むとき、高さがわずか数十センチほどしかなく、船に乗っていてもほとんど分からないほど静かです。しかし沿岸に近づくと、海底が浅くなることで突然大きく立ち上がり、人間に“波”として認識されるようになります。

このため現代においても、津波は海上を伝わる様子を観測することが非常に困難です。

従来は、海底の圧力変化を測る深海ブイ「DART(Deep-ocean Assessment and Reporting of Tsunamis)」や沿岸の潮位計が主な観測手段でした。

しかしどちらも点での観測に限られ、津波全体の形やどのように広がっていくかを正確にとらえることはできませんでした。

地震が起きるたびに津波の広がりをモデル計算で再現してきましたが、その正確さを“実際の津波”で確かめる方法がありませんでした。

しかし、それを可能にしたのが、2022年に運用が始まったSWOT衛星です。

人工衛星SWOTの外観イメージ/Credit:CNES

SWOTは海面の高さを、幅120キロメートルの帯状(スワス)で高解像度に観測できるという特徴があります。

解像度は約2キロメートルで、海面のわずかな高低差まで読み取ることができます。

従来の衛星のように細い線状のデータではなく、海面を一枚の画像のように広く“面で”とらえることができるのです。

今回の地震では、SWOTが通過するタイミングと津波の進行が偶然重なり、太平洋の中央を進む津波の“実際の姿”が衛星の視野に収まりました。

研究チームは、このデータが津波研究の大きな転換点になると考えています。

衛星が捉えた複雑な津波の模様

SWOT衛星が初めて捉えた「太平洋上の津波」の実データ/Credit: Ruiz-Angulo et al., The Seismic Record (2025)

カムチャッカ半島沖地震では、全長約400キロメートルにおよぶ断層が一気にずれ、海底が最大で4メートルほど隆起したと推定されています。

この急激な海底の変化が、津波を押し出す巨大な力となりました。

SWOTがとらえた海面には、その津波の複雑な構造が鮮明に現れていました。

最初に押し寄せる大きな波だけでなく、その後ろには細かな波が何列も続き、まるで編み込まれた帯のような模様をつくっていたのです。

これまでの理解では津波はそこまで複雑な波形にならないと考えられていたため、今回の観測はその見方を覆す結果となったのです。

ではこのような津波の実際の姿が観測から示されたことで、新たにどのようなことがわかったのでしょうか?

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