従来予想よりずっと複雑だった津波の真の姿
SWOT が捉えた津波の“本物の姿”をもとに、研究チームは津波の進み方や地震の特徴について新しい理解を得ようとしました。
まず、衛星が記録した複雑な模様と、深海ブイや地震モデルから計算したシミュレーション結果を丁寧に見比べることで、従来の知識では説明できなかったいくつかの事実が浮かび上がってきました。
そのひとつが、「津波は単純な長い波ではない」という発見です。
これまで津波は、波長があまりに長いため、波の長さによって速さが変わる“分散”はほとんど起きないと考えられてきました。
しかし SWOT の観測では、主波の後ろに細かい波が何列も続く“分散波”がはっきりと見えました。
これは、津波が太平洋を渡るあいだに波同士が少しずつ追い越したり離れたりすることで生まれたもので、津波の内部で起きている物理過程を初めて直接観測できた例といえます。
また、衛星画像では波が海底地形にぶつかって裂けるように散乱する様子も映っていました。
こうした微細な構造は、従来の「点」データではまったく見えなかったもので、津波が進む途中の振る舞いには、これまで想像されていなかったほどの複雑さがあることを示しています。
さらに興味深いことに、これらの観測結果は地震そのものの理解にも新しい光を当てました。
研究チームは、深海ブイや地震学のモデルから推定した震源のすべり方をもとに津波シミュレーションを行い、その結果を SWOT の観測と照らし合わせました。
その比較によって、従来のモデルよりも南側に断層の破壊が広がっている方が、衛星がとらえた津波の模様により近いことが判明しました。
つまり、SWOT の観測が“震源モデルの妥当性検証”という新しい役割を果たしたのです。
また、1952 年に同じ地域で発生した M9.0 の巨大地震と比べると、今回の地震はやや深い場所で破壊が進んだため、津波の規模が小さくなったとみられます。

これは津波の観測から地震の特徴を逆に読み解くという、まさに津波学と地震学が重なる瞬間でした。
新たな事実が明らかになった一方で、今回の結果は多くの課題も提示しています。
SWOT のデータは非常に高精度ですが、リアルタイムでは手に入りません。
現在は数日から 10 日ほどの遅れがあり、津波警報の即時運用には使えないのが現状です。
また、太平洋には深海ブイが十分に配置されておらず、ブイ単独では津波の細かな広がりや震源のすべり分布を推定するには限界があることは、以前から知られていました。
しかし今回、SWOT 衛星が“面としての津波”を直接とらえたことで、従来のモデルでは再現しきれない細部が明らかになり、この観測網の弱点があらためて浮き彫りになりました。
それでも今回の成果によって、津波研究は大きく前進しました。
太平洋のまさに“ど真ん中”で津波の全体像を見たのは史上初であり、これからは衛星データが津波の理解を大きく押し広げていくと考えられます。
もし将来、SWOT の後継機がリアルタイム観測に対応すれば、津波の初期の広がりを宇宙から直接確認し、警報の精度をさらに高めることも夢ではありません。
宇宙から地球を見つめる新たな観測の目は、津波の研究においてようやく始まったばかりです。
今回の研究は、その第一歩として「津波の姿を直接見る」という新しい時代の幕開けを示しています。





























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素晴らしいです。いくつもこの衛星が欲しいです。
私が認識を誤ってました。
津波の伝播は、島嶼や海山があっても、回折により何もなかったかのようにホイヘンスの同心円状に広がってゆくと思ってましたが、(同心円状の)場所的な強弱が保存されて遠方へ伝播されるのですね。
地表水・海洋面高度図を作る衛星SWOTは、(重力異常や黒潮の高まりなど)静的な情報を拾うと思ってましたが、波長の長い津波は、衛星がたまたま頭上にあれば観測可能なんですね。
現行の衛星軌道にもう1~2機投入(そしてデータリンク基地を世界に数局)すれば、世界的な津波監視体制がとれそうです。
現行のモデルは、メッシュを切って初期値を入れて運動方程式を発展させていくことで予測を立てているようです。流行を追って、個々の海洋型地震の衛星画像が集積すれば、教室ありの深層学習で精度を上げられそうにも思えますが、そこは地球物理学屋のプライドから踏み込まれないのかもしれませんね