微生物が脳のような電気ネットワークを形成し、海底のメタンを分解している
微生物が脳のような電気ネットワークを形成し、海底のメタンを分解している / Image source: NOAA Office of Ocean Exploration and Research.
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微生物が脳のような電気ネットワークを形成し、海底のメタンを分解している (2/3)

2025.08.25 21:00:14 Monday

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電気を送り合う微生物たち

電気を送り合う微生物たち
電気を送り合う微生物たち / Credit:Canva

今回の研究チームは、海底でメタンを分解する2種類の微生物のペアに着目しました。

1つはメタンを食べる特殊な古細菌(嫌気性メタン酸化古細菌)で、もう1つはその相棒となる硫酸還元菌という細菌です。

これらの微生物は、普段は海底の泥の中で多くの他の生物や物質に囲まれて暮らしています。

しかし、このままの状態では、微生物自身の特徴や働きを正確に調べることが難しいため、

研究チームは「微生物だけを増やす培養」を行いました。

この培養では、海底の泥やその他の生き物などの余分なものを取り除いて、

目的とする微生物のペアを中心に増やしました。

電気を通すかどうかを調べるには、微生物の塊を小さな電極につなぎ、電気の流れを測定します。

ちょうど電気の通り道をテストするようなものです。

その結果、なんと微生物の塊は電気をよく通すことがわかりました。

細胞同士がつながって一つの電子回路になっているかのように、電子がスムーズに移動していたのです。

しかし、「なぜ微生物は電気を通せるのか?」という疑問が残りました。

そこで研究チームは、微生物が電気を通す仕組みを詳しく調べることにしました。

まず考えられたのは、微生物が金属のような単純な導線の仕組みで電子を運んでいる可能性でした。

もし金属のような単純な仕組みであれば、電気を流すとき電圧を高くすると、それに比例して電流も高くなるはずです。

しかし実際に微生物でテストしてみると、電流は単純に電圧に比例して増えるわけではありませんでした。

代わりに、特定の電圧のところで、はっきりとした「山」のようなピークが現れました。

この「ピーク」の意味は何でしょう?

これは微生物が、特定の電圧付近でしか電子を受け取ったり渡したりできないことを示しています。

例えるなら、電子を手渡しするリレーが微生物の中で行われているようなもので、自由に電子が通れる金属の導線とは違っていたのです。

さらに詳しく調べると、このピークの性質は「マルチヘムc型シトクロム」というタンパク質の特徴とよく似ていることがわかりました。

このタンパク質は、細胞内外で電子を受け取ったり渡したりする役割を持つことが知られています。

つまり微生物は、細胞の中にタンパク質でできた電子リレー(バケツリレーのような仕組み)を持っている可能性が示唆されたのです。

ですが決定的となったのは、電子が実際に微生物から微生物へ移動していることを直接確かめる実験でした。

実験では、微生物の塊の片側の端から電子を送り込み、反対側の端でその電子が出てくるかを調べました。

すると、片方の端で送り込んだ電子信号が、微生物の細胞間を通ってもう片方の端まで届いていることが確認されました。

その距離は数マイクロメートルで、これは古細菌と硫酸還元菌が細胞間で電子をやり取りするのに十分な距離です。

この結果は非常に重要です。

研究チームは、これがメタン分解を担う微生物たちの共生を支える重要な手がかりとなり、これまで仮説にとどまっていた『細胞間の電子輸送(レドックス伝導)』を実際の測定で示した成果だと考えています。

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