脳の似た反応が友情を予測する
結果は驚くべきものでした。
入学から8か月後に親しくなっていた学生たちは、すでに最初のfMRI実験の時点で「左眼窩前頭皮質」と呼ばれる脳領域の活動がよく似ていたのです。
この部位は、物事の価値判断や社会的な意思決定に関わる場所で、「何が楽しい」「どこに注目する」といった感覚の好みを反映すると考えられています。
つまり、同じ場面で同じように「おもしろい」と感じる人同士は、まだ顔を合わせる前から将来友達になる可能性を秘めていたのです。
さらに細かく見ると、2か月から8か月の間に「より仲良くなったペア」と「疎遠になったペア」との間でも差が出ていました。
仲良くなった人たちは、視覚野や側頭葉、前頭前野、扁桃体、視床など多くの脳領域において反応が似ており、感情の動きや注意の向け方、物語の理解の仕方まで共通していることが示されました。
一方で、年齢や性別、出身地といった社会人口学的な要因を統計的に取り除いても、この「脳の似ていること」が友情形成を予測する力は残りました。
この研究から見えてくるのは、人間関係の奥深いメカニズムです。
入学直後の友達づくりは、同じ授業や座席の近さなど偶然による要素も大きいでしょう。
しかし時間が経つにつれて残るのは、同じように世界を見て、同じように感じることができる「神経的に似ている相手」だと考えられます。
研究者たちは、この傾向を「神経的ホモフィリー(neural homophily)」と呼んでいます。
これは「似た脳の働きを持つ者同士が自然と引き寄せられる」という考え方です。
友人関係がただの偶然の産物ではなく、脳レベルでの相性に基づいているという点は非常に興味深いものです。
同じ映画に対して同じ反応を示すなら、その人とは相性がいいのかもしれません。
基本的には話の合う人と付き合うようにできていると。