平和なサイコパス──“冷酷”でも犯罪に走らない人の条件
平和なサイコパス──“冷酷”でも犯罪に走らない人の条件 / Credit:Canva
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平和なサイコパス──“冷酷”でも犯罪に走らない人の条件

2025.04.21 18:00:27 Monday

ニュージーランドのオタゴ大学(UoO)で行われた研究が、「サイコパス=危険人物」という定説に揺さぶりをかけました。

生まれつき“冷酷で自己中心的”と見なされる人でも、十分な経済的余裕と親からの継続的な見守りがあれば“犯罪スイッチ”は下がることがわかりました。 

この結論は、18〜21歳の若者1,200人を対象にオランダで7年間追跡した大規模調査に基づいています。

私たちは今後、“平和なサイコパス”とどう共存していくべきなのでしょうか?

研究内容の詳細は『Journal of Criminal Justice』にて発表されました。

Do early environmental factors influence the relationship between psychopathy and crime: Longitudinal findings from the transitions in Amsterdam study https://doi.org/10.1016/j.jcrimjus.2025.102399

サイコパス=犯罪者? そこに穴が開いた

サイコパス=犯罪者? そこに穴が開いた
サイコパス=犯罪者? そこに穴が開いた / Credit:Canva

私たちのパーソナリティは、車でいえばアクセルとブレーキが共存する複雑なマシンです。

サイコパス特性はその中でも、とびきり強いアクセル――「他人の痛みを感じにくい冷酷さ」や「自分の欲を最優先する自己中心性」――を指す言葉です。

一度アクセルがベタ踏みになれば、赤信号を突き破ってでも目標へ突進してしまう危うさがあります。

ところが実社会を見渡すと、同じような“高出力エンジン”を積みながら、法を破らず静かにキャリアを築く人もいれば、違法行為に手を染める人もいます。

この落差はどこから生まれるのでしょうか。

近年、心理学者の間で注目を集めているのが「モデレーテッド・エクスプレッション・モデル」です。

イメージとしては、車体のサスペンションや道路状況が走りやすさを左右するように、経済力・親の関わり・幼少期のトラウマなど“環境のばね”がサイコパス特性の暴れ方を調整するという考え方です。

たとえば裕福な家庭で育てば、アクセルを踏んでも周囲に合法的な近道(一流大学や起業支援)が用意されているので危険運転をしなくて済むかもしれません。

逆に貧困や家庭内暴力といった“荒れた路面”では、ハンドル操作を誤ればたちまちスリップして犯罪に突っ込む恐れがあります。

これまでの研究でも、一部の報告では企業経営者や外科医にサイコパス的傾向が高い「成功型サイコパス」が目立つとの指摘がある一方、刑務所内ではサイコパス特性スコアが一般の数倍に達するというデータも多く蓄積されています。

ただし、こうした先行研究はサンプルの取り方や評価法が異なるため、必ずしもすべての経営者や外科医が高いサイコパス傾向を持つわけではありません。

また、その間を分ける“環境のスイートスポット”を長期的に追いかけた調査は意外と少なく、特に若者が大人になる過程で何が鍵になるのかは手探り状態でした。

そこで今回研究者たちは、同じサイコパス特性を持つ若者でも「犯罪へハンドルを切る人」と「平和に走り抜ける人」を分ける環境要因を、大人数を長期間追跡して具体的に特定することにしました。

次ページサイコパスの中には平和に生きている人たちもいる

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