サイコパスの中には平和に生きている人たちもいる

研究チームは、アムステルダムに住む18〜21歳の若者1,200人を2010年から最大2017年まで追跡し、サイコパス特性と犯罪行動の関係を詳しく調べました。
このサンプルには、過去に警察との接触があった若者が意図的に多めに含まれており、多様な背景の若者を評価できるよう工夫されています。
参加者は毎年アンケートに回答し、〈エゴ中心性・冷酷さ・反社会性〉の三つの因子から成るレーベンソン自己報告サイコパス尺度で性格特性を測定しました。
同時に、親の学歴と職業から推定した世帯の社会経済的地位、親が子どもの居場所や交友関係をどれだけ把握しているかを示す「親のモニタリング」、片親世帯かどうか、虐待や家庭内暴力など逆境的幼少期体験の有無、親子関係の質、近隣の治安や貧困度という六つの環境要因を記録しました。
さらにオランダ司法当局のデータベースと照合し、期間内に公式な犯罪歴が付いたかどうかを確認しました。
解析の結果、最も大きな保護効果を示したのは親の社会経済的地位で、高い社会経済的地位に属する若者は低い社会経済的地位に比べ、将来公的な犯罪記録が残る割合がおよそ半分以下でした。
この抑制効果は、エゴ中心性・冷酷さ・反社会性のどの因子が高くても一貫して確認されました。
次に強かったのが親のモニタリングで、親が日常的に「どこにいるの」「いつ帰るの」と気に掛ける家庭の子どもは、サイコパス得点が高くても犯罪歴が付く確率が約30〜40%低下しました。
反対に、片親世帯や虐待・家庭内暴力など逆境的幼少期体験を抱える若者では、特にエゴ中心性や冷酷さが高い場合に犯罪へ至る危険が約2倍に跳ね上がりました。
興味深いことに、衝動や短気を反映する反社会性の因子は、過去の自己申告による非行を統計的に差し引くと、将来の犯罪をほとんど追加的に説明しませんでした。
また、親子関係の温かさや近隣の治安といった指標は、サイコパス特性と犯罪を結び付ける強さを有意には変化させませんでした。
要するに、同じ程度のサイコパス傾向をもつ若者でも、世帯の経済力と親の日常的な見守りが十分にあると犯罪に関わるリスクは大きく下がり、逆に親の不在や幼少期の逆境が重なるとリスクは大きく跳ね上がることが、7年にわたる追跡で明確になりました。