なぜ今「仕事×幸福」を科学するのか

人々は昔から「〇〇という職業は幸せそう」「△△の仕事は大変そう」といったイメージを抱いてきました。
しかし、職業と人生満足度の関係を科学的に検証した研究は少なく、性格などの個人差を十分に除外できていないケースが多かったです。
たとえば「楽天的な人はどんな仕事でも満足しやすいのか」、あるいは「仕事そのものの特性が満足度を左右するのか」は切り分けが難しい問題です。
そこでエストニアのタルトゥ大学を中心とする研究チーム(第一著者カトリン・アンニ氏ら)は、エストニアのバイオバンクに登録された約5万9千人のデータを用いて職業別の満足度を比較しました。

対象となった職種は263種類に及びます。
今回の研究では、あらかじめ分析計画を公開したうえで、年齢・性別・学歴などの人口統計学的要因に加えてビッグファイブ性格特性も詳細に測定し、統計モデルに組み込みました。
つまり「本人の性格や背景を考慮しても、職業の違いによって満足度に差が出るのか」を検証したのです。
この点が、過去の研究で曖昧だった部分を大きく補う特徴となっています。
研究チームの目的は、職業ごとの「仕事満足度」および「人生満足度」の差を客観的に測定し、「どの職業に就く人がより幸せなのか」を明らかにすることでした。
さらに、もし職業間で満足度に差が見られた場合、その要因が収入や社会的地位によるのか、あるいは仕事内容そのもの(自律性や対人支援の度合いなど)によるのかを検証する狙いもありました。
いわば「仕事選びと幸福度」の関係をデータで解き明かそうとする、壮大な試みです。