キラキラネームは40年も前から増加していた
「子どもに個性的な名前を付けたい」親たちによって、キラキラネームは採用されてきました。
このキラキラネームには、非常に珍しい名前、当て字を使った名前、漫画やアニメのキャラクターを当てはめた名前などが該当します。
例えば、七音(どれみ)、主人公(ひーろー)、光宙(ぴかちゅう)といった名前の話題は誰もがネットを中心に見た覚えがあるでしょう。
ネット上ではこうした個性的な名前について、最初「DQN(ドキュン)ネーム」という呼び方が使われていました。
しかし、このDQNという言葉は、教養のない人などを指すネット上のスラングで、非常に侮蔑的な意味を含んでいたため、これに変わる呼び方としてメディアなどを中心に「キラキラネーム」という呼称が2010年代頃から定着していきました。
現在でも、子どもににキラキラネームを名付けたがる親は多いようです。
では、キラキラネームはいつから増えてきたのでしょうか?
荻原氏ら研究チームは、過去から現在に至るまでの新生児の名前を調査することで、キラキラネームの増加傾向を明らかにしようとしました。
まず日本各地の地方自治体から、新生児の名前が記載された広報誌を収集。
そこに含まれていた1979~2018年に生まれた新生児の名前5万8485件を分析したのです。
そして、いわゆるキラキラネームと言える「自治体内で1年間に他の新生児の名前と重複していない名前」の割合を算出し、時間の経過に伴う変化も分析しました。
加えて、同様の方法で3年単位の分析も実施しました。
その結果、どちらの分析においても、個性的な名前の割合が増加し続けていると判明。
しかもその増加は、40年前の1980年代から見られていたのです。
つまりキラキラネームの存在自体は、この言葉が定着する少なくとも30年以上も前から増えていたというわけです。
荻原氏の先行研究(2021)では、2004年の時点でキラキラネームが増加していたことがすでに示されていましたが、実際はもっと昔から増加していたようです。
ちなみに1993年には、親が実子に「悪魔(あくま)」と命名しようとして、行政が受理を拒否するという騒動がありました。
当時は衝撃的な出来事として大きな話題を呼びましたが、もしかしたらその背後にも「個性的な名前を付けたい親の増加」があったのかもしれません。
実際、「悪魔」ほどではないにせよ、他の誰もが名付けないような「キラキラネーム」は、下のグラフからも分かるように、当時まさに増加中だったのです。
また近年の親は子どもに対してより個性的な名前を与えていることも判明しました。
研究チームは今回の研究結果を受けて、「個性や他者との違いを重視し強調する方向に、日本文化が変容(個人主義化)している」と結論付けています。
こうした日本文化の個人主義化を示す知見は、家族構造や価値観の個人主義化を示す知見とも一致しているといいます。
おじいちゃん、おばあちゃんと家族が一緒に暮らすのが当たり前の時代なら、キラキラネームは付けづらいと予想できますが、核家族化が進んだ現代では、若い親が自らの感性で個性的な名前をつける割合は増えるでしょう。
こうした家族構成の変化を含めた社会の変容が、子どもの名前の変化にも現れている可能性があります。
「本多平八郎忠勝」みたいな名前が現代にはないことを考えれば、こうした変化が起きていくのは当然の事かもしれません。
研究者たちは、現在の新型コロナウイルスの蔓延も日本社会に大きな変容を与える要因であると考えており、これが新生児の名づけや日本文化に与える影響についても、今後検証していきたいと述べています。