【東大】指輪型無線マウスを開発――仮想画面の空中操作を現実に
【東大】指輪型無線マウスを開発――仮想画面の空中操作を現実に / Credit:Ultra-low-power ring-based wireless tinymouse
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【東大】指輪型無線マウスを開発――電波を発しない仕組みで省エネ達成

2025.10.21 18:00:06 Tuesday

空中に浮かぶ仮想画面を、指先の動きだけで思いのまま操作する――そんなSFのような光景が、現実に近づいています。

日本の東京大学(UTokyo)を中心とする研究チームは、わずか0.000449ワットという超低電力で動作し、小さなバッテリーで約600〜1000時間(約1ヶ月以上)の連続使用が可能な指輪型マウス「picoRing mouse」を開発しました。

この指輪型デバイスは、長時間の使用でも疲れにくく、外出先や公共の場でも気軽にARグラスの仮想画面を操作できます。

指輪型デバイスは、いったいどのような仕組みで劇的な節電を実現したのでしょうか?

研究内容の詳細は2025年9月27日に『ACM Symposium on User Interface Software and Technology (UIST ’25)』にて発表されました。

ごくわずかな電力で動く指輪型無線マウスの開発に成功 ―日常空間でARグラスを目立たず半永久的に扱うコントローラに向けて― https://www.t.u-tokyo.ac.jp/press/pr2025-10-01-003
Ultra-low-power ring-based wireless tinymouse https://doi.org/10.1145/3746059.3747615

スマートリング普及のカギは『電池』だった

指輪型マウスは次世代の操作端末になる
指輪型マウスは次世代の操作端末になる / Credit:Ultra-low-power ring-based wireless tinymouse

「満員電車の中で、さりげなく空中の仮想画面を操れたら便利だろうな」――そんな未来を想像したことはないでしょうか。

スマートフォンの次にやってくると予測される、ARグラス(拡張現実メガネ)。

メガネ越しに、目の前の空間にデジタルの情報を重ねて表示するこの技術は、近年ますます進歩しています。

たとえば、街を歩きながら道案内を見たり、電車の中でニュースをチェックしたりといった使い方が考えられます。

とはいえ、ARグラスは見るだけのデバイスではありません。

表示された仮想画面をスクロールしたり、ボタンを押したりする必要があります。

けれど、電車内や街中で手を大きく動かすのはちょっと恥ずかしい。

さりげなく操作できるような仕組みが欲しいものです。

そこで注目されているのが指輪型のコントローラー、いわゆる「スマートリング」です。

スマートリングは、指に装着することで、微妙な指先の動き(マイクロジェスチャー)を検知します。

具体的には、人差し指につけたリングを、親指で少し動かすだけで、画面上のスクロールやクリックといった操作ができるようになります。

指先のわずかな動きで済むため、周囲から見ても目立ちません。

しかも、腕を動かさずに使えるので、長時間の使用でも疲れにくいのが特徴です。

机がなくても、キーボードやマウスが手元になくても、ARグラスを自由自在に操作できるのです。

まさにAR時代の「いつでもどこでも使えるマウス」として、大きな期待がかかっています。

指輪型マウスはARと相性がいい
指輪型マウスはARと相性がいい / Credit:Ultra-low-power ring-based wireless tinymouse

ところが、この便利そうなスマートリングには致命的な弱点がありました。

それはバッテリーがあまり持たないということです。

指輪型のデバイスはサイズが小さいため、搭載できるバッテリーもごく小さくなります。

そのため、少し長めに無線通信を使うだけで、すぐに電池切れを起こしてしまうのです。

たとえ省電力で知られるBLE(Bluetooth Low Energy)通信であっても、指輪からデータを送り続けると、電池はせいぜい1〜10時間しか持ちません。

結果としてユーザーは、頻繁に充電しなければなりません。

「いつでもどこでも使える」とは言い難く、使いたいときに電池が切れている、なんてことも日常茶飯事でした。

こうしたバッテリー問題が、指輪型マウスの普及を妨げる最大の壁となっていました。

そこで研究チームは、この弱点を克服するための発想を大きく転換しました。

従来の方法では、指輪側が自ら電波を飛ばして通信を行う必要がありました。

電波を飛ばすためには多くのエネルギーが要りますから、小さなバッテリーはすぐに力尽きてしまいます。

ならば、そもそも指輪側が自力で電波を出さなくても済む通信方法を考えればいい――。

研究者たちはこうした大胆なアイデアに挑戦したのです。

指輪からほとんど電力を使わずに情報を送り出す方法が、本当に実現できるのでしょうか?

まるで「空中から電気を取り出すような」都合のいい通信方法など、果たして可能なのでしょうか?

研究チームは、この難題に真正面から挑みました。

次ページ指輪が『電波を出さず』に通信する仕組

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