アライグマに家畜化の初期兆候を発見――人間が直接関与しない家畜化現象だった
アライグマに家畜化の初期兆候を発見――人間が直接関与しない家畜化現象だった / Credit:川勝康弘
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アライグマに家畜化の初期兆候を発見――人間が直接関与しない家畜化現象だった (3/3)

2025.12.02 18:00:13 Tuesday

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人間の住処に近づくだけで家畜化が始るとしたら?

人間の住処に近づくだけで家畜化が始るとしたら?
人間の住処に近づくだけで家畜化が始るとしたら? / Credit:Canva

今回の研究により、人間の暮らしに紛れ込んだアライグマの集団で家畜化初期の兆候が現れる可能性が示唆されました。

人間が手を下さなくても、野生動物が人間社会に適応する中で“自発的な家畜化”が始まる可能性を示唆した点で、この研究は意義深いものです。

実際、本研究の結果はロンドンのキツネや農場ネズミでの観察とも合致し、家畜化症候群の汎発性(はんぱつせい:種を超えて起こる普遍性)を支える知見の一つとなりました。

加えて、神経堤細胞仮説として知られる統一的なメカニズム(家畜化症候群の様々な特徴を一括して説明しうる発生学説)を支持するエビデンスの一つにもなっています。

野生動物の進化が人間の生活圏によって方向づけられることを、私たちは身近なアライグマで垣間見たのです。

論文の共著者である学生たちは現在、アルマジロやオポッサムなど他の都市野生動物でも同様の変化が見られるかを調べる追試も始まっています。

都市にすむ「ゴミ漁り仲間」たちにも鼻先の短縮が確認されれば、都市環境が幅広い種で家畜化症候群的な進化を誘発する可能性が高まります。

本研究のRaffaela Lesch(ラファエラ・レッシュ)氏も、人間の存在だけで家畜化のようなプロセスが動き出すのかを確かめたい、という趣旨のコメントをしています。

身近なアライグマで起きている変化を知ることは、都市と野生動物の関係を捉え直す手がかりになるでしょう。

ではもし「人間の住処に近づくだけで家畜化が始まる」としたら、それは私たちが思っている以上に、人間の暮らしそのものが周りの生き物を作り変えているということになります。

これまでは、家畜化といえば人間が動物を捕まえ、気に入った性質を持つ個体だけを選んで交配させる、いわば“人間のプロジェクト”として語られることが多かったと思います。

しかし今回のアライグマのように、人間は繁殖に直接かかわっていないのに、人間の近くで暮らすだけで「おとなしい性格が得をする」「その変化が見た目にもじわじわにじんでくる」ような現象が起きるとしたら、家畜化はもっと広い意味で「人間の作った環境に合わせて、野生が勝手に自分を作り替えるプロセス」と言い換えることができるかもしれません。

この視点に立つと、人間の町は単なる「動物がたまたま紛れ込んでくる場所」ではなくなります。

ゴミ箱、街灯、公園、道路、ペットフードのおこぼれ…。

都市には人間の生活がつくり出した独特のニッチ(すき間の生活空間)がいくつもあり、そのニッチごとに「ここで生き残れる性格や体の特徴」が決まってきます。

都市のアライグマやキツネが少しずつ“家畜寄り”の特徴を帯びていくのだとしたら、それは都市そのものが巨大な「自然選択マシン」として働き、野生動物に対して見えない選別をかけていることを意味します。

私たちがゴミの出し方を変えたり、緑地や建物の構造を変えたりすることは、間接的に「どんな性格と体つきの動物が生き残るか」を変える操作でもあるのです。

最近のスズメが逃げなくなった

年配の人々って「スズメはすぐに逃げる」というイメージがあるでしょうが、近頃のスズメは記憶の中に比べてかなり逃げにくくなっています。

学術研究や有志の報告書でも日本各地で1980年代後半以降、日本各地で手乗りスズメや人慣れスズメの報告が増えていることが報告されています。

もう一つの意味は、「野生」と「家畜」の境界が思ったよりもあいまいだということです。

完全な家畜になる前の“半野生”“半ペット”のような存在が、都市のあちこちで生まれている可能性があります。

こうした中間的な動物たちは、人間にとっては害獣にもなりうるし、新しいタイプの共存相手にもなりうる、どちらにも転びうる存在です。

もし人間の住処に近づくだけで家畜化の方向づけが始まるのだとしたら、私たちには「どのような野生との距離感を選ぶのか」という問いが突きつけられます。

排除するのか、それとも安全を確保しながら“都市の隣人”として受け入れるのか。

その選び方によって、これからの進化の方向も少しずつ変わっていくかもしれません。

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