「穀物船」が死を運ぶ。ペスト菌の上陸とその爆発的流行
飢えから救うはずだった穀物船。
しかし、その積み荷の奥深くには、もう一つの「乗客」が潜んでいました。それがペスト菌を媒介するノミやネズミだったのです。
研究チームによれば、1347年の夏以降、黒海から地中海に到着した最後の穀物船の到着からわずか数週間後、イタリア・ヴェネツィアで最初のペスト感染が確認されました。
この典型的な感染サイクルはこうです。
まず船にいたネズミやノミがペスト菌を持ち込み、齧歯類に感染。ネズミが大量死するとノミが人間や家畜に乗り移り、やがて都市全体を飲み込む大流行へとつながっていきました。
興味深いのは、すべての都市が同じように被害を受けたわけではなかった点です。
たとえばミラノやローマなど、1345年以降も自給できて穀物輸入を必要としなかった都市では、黒死病の被害が比較的軽微だったことも分かっています。
つまり、「火山噴火→気候変動→農業危機→穀物輸入→ペスト菌流入」という連鎖が、“必要条件”としてピンポイントに重なった結果、中世のペストパンデミックは発生したのです。
こうした複数の要素が“偶然かつ同時に”組み合わさったことで、歴史に残る大流行が引き起こされた。
この一連の流れは、現代の疫学や社会学にも大きな示唆を与えています。
今回の研究は、黒死病の裏側に「火山噴火」という一見無関係な自然現象が存在していた可能性を浮き彫りにしました。
人類は気候や自然災害、経済システムの変化によって常に影響を受けてきました。
そしてそれは、今のグローバル社会や気候変動時代にも共通する教訓です。
研究者たちは「気候変動下で人獣共通感染症(動物から人へ感染する病気)が新たなパンデミックになる確率は今後さらに高まる」と警鐘を鳴らします。
中世の火山噴火がペスト大流行の引き金となったように、予想もしない要素が新たな危機を呼ぶこともありえるのです。
過去のパンデミックを紐解くことで、未来の脅威への備えが可能になるかもしれません。

























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