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psychology

ネットのヘイト行動は“人間の基本的な心理欲求”で説明できる (2/2)

2025.12.20 21:00:55 Saturday

前ページ約2,000万件ものチャットログを解析

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自分の能力に執着する人は、暴言を吐かない

解析の結果、投稿頻度が高く、長期間コミュニティに留まる傾向があるユーザー群は、「有能感(Competence)」と「自律性(Autonomy)」の欲求スコアが高いことが判明しました。

ところが興味深いことに、 彼らは活動量が多いにもかかわらず、 ヘイト用語や露骨な差別語をあまり使わない傾向が確認されたのです。

彼らがヘイト用語(侮蔑的なスラングや単純な暴言)を避ける理由は、彼らの行動動機である「欲求の性質」から論理的に説明できます。

有能感の欲求に基づく能力の証明手段

「有能感」とは、自身の能力を発揮し、周囲に影響を与えたいという欲求です。 この欲求を持つユーザーにとって、コミュニティでの発言は、自身の知性や論理構築能力を証明する機会として機能します。

「死ね」「ゴミ」といった単純な罵倒語は、誰にでも使える安易な言葉であり、自身の知性や論理力を誇示する手段として機能しません。 自分の能力を周囲に認めさせたいと願う彼らにとって、幼稚な言葉遣いは「無能」と見なされるリスクがあり、自身のプライドを満たす手段としては不適切なのです。

そのため彼らは、露骨なヘイト用語を避けつつ、別の形で存在感を示そうとしている可能性があります。

自律性の欲求は集団同調を避けようとする

「自律性」とは、他者からのコントロールを受けず、自身の行動を自ら決定したいという欲求です。この欲求が強いユーザーにとって、集団への同調や流行やトレンドに従うことは、自身の独立性を損なう行為として忌避される傾向にあります。

ネット上での特定ターゲットへの集団的なバッシングや、決まり文句のような差別用語を連呼する行為は、心理学的に見れば典型的な「同調行動」に他なりません。そのため、自律性を重んじるユーザーは、こうした「他者と同じ言葉を使って騒ぐ」行為を避けようとすると考えられます。

彼らはヘイト用語を使用しないため、表面的な攻撃性は低く見えます。しかし、彼らは直接石を投げたりしませんが、その石を投げるための「論理的な土台」を提供し続けることで、結果としてコミュニティの過激化を長期間支えると考えられます。


過激になりやすいのは「つながり」を求める人

一方で、分析においてヘイト用語の使用と結びつく傾向があったのは「関係性」のスコアでした。

AIによる解析では、「仲間」「一緒」「みんな」「分かってほしい」など、『つながりを求める文脈(関係性)』に近いほど、ヘイト用語の使用と結びつく可能性が示されました。

なぜ、「つながりを求める人」ほど攻撃的な言葉を使うのでしょうか。

研究チームは、これを「集団への同調行動(Group conformity)」として解釈しています。

周囲の反応や空気を重視するユーザーにとって、その集団の決まり文句を使うことは、集団への適応手段となります。

もしコミュニティの結束が「特定の誰かを激しく叩くこと」で維持されている場合、より強い言葉、より過激な表現を使うことが、自分がその集団の仲間であると証明するための合理的な行動(適応戦略)として選択されると考えられます。


日本の「炎上」騒動にも似た心理が潜んでいるかもしれない

今回の研究対象は、海外の極右や白人至上主義などの過激派コミュニティにおけるDiscordログでした。

扱っているテーマは日本の一般的なネット利用とは異なるように見えますが、そこで明らかになった「人間の心理的欲求と行動のメカニズム」は、日本のネット掲示板のアンチスレや、SNSで頻発する炎上やバッシング現象を理解する上でも重要な示唆を与えてくれるかもしれません。

不祥事や失言をきっかけに、集団による激しい攻撃が行われる際、攻撃者の多くは「強い正義感」による行動であるように振る舞いたがります。 しかし、今回の研究結果は、彼らの隠れた欲求が何であるのかを示唆しています。

こうした分析を知っていけば、ヘイト活動する人たちにただ感情的に憤ったり、反論を仕掛けることを回避できるかも知れません。また、自身がヘイトに参加している人たちも、本当は自分が何を望んでいるのかに気づいて、過激な活動からは距離を置くことが出来るかも知れません。

顔の見えないネットユーザーの発言は、表面的な言葉だけでは読み取れない裏があるのです。

※今回の研究で使われたデータは、独立系ジャーナリズム団体 Unicorn Riot によって外部に流出・公開され過激派コミュニティの私的なDiscord会話ログです。
漏えいデータを研究に用いた点について倫理上の難しさがあることは、著者らも明確に認めています。その上で今回の研究では個人が特定されないようデータを追加で匿名化し、データの出所も隠さず示し、漏えいデータの取り扱いに関する既存のガイドラインに沿って扱ったと説明されています。また本研究は、マギル大学の倫理委員会の承認を得て実施されていると記載されています。

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