「宇宙が膨張してる」のではなく「物質世界が縮んでいる」とする新理論が発表――なんと観測データとも整合
「宇宙が膨張してる」のではなく「物質世界が縮んでいる」とする新理論が発表――なんと観測データとも整合 / Credit:川勝康弘
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「宇宙が膨張してる」のではなく「物質世界が縮んでいる」とする新理論が発表――なんと観測データとも整合 (2/3)

2026.01.30 21:00:55 Friday

前ページ観測精度が上がるほど見えてきた宇宙論のほころび

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宇宙誕生から物質世界が3~4割縮んでいる

宇宙誕生から物質世界が3~4割縮んでいる
宇宙誕生から物質世界が3~4割縮んでいる / Credit:川勝康弘

ここで大事になってくるのが、「私たちは何を基準に宇宙を測っているのか」という視点です。

距離を測るとき、私たちはメートルという単位を使いますが、その裏には「原子の振動」や「光の速さ」といった、もっと根っこの物理量があります。

時間を測るときの秒も、ある原子が一定回数振動する時間を基準に定義されています。

言いかえれば、私たちが宇宙を観測するときには、いつも「物質世界で決めたものさし」と「物質世界の時計」を通して宇宙を眺めていることになります。

もしこの「ものさし」や「時計」そのものが、宇宙の歴史の中でほんのわずかずつ変化していたとしたらどうなるでしょうか。

例えば、自分が持っている定規の方が年々少しずつ縮んでいたら、同じ壁の長さを測っても「昔は10センチだったのに、今測ると15センチになっている」と感じてしまうかもしれません。

本当は壁の長さは変わっていないのに、「世界の方が伸びた」と勘違いしてしまうわけです。

時間の刻み方が変わる場合も同様で、昔の1秒が今より長かったり短かったりすれば、「変化の速さ」についての見え方は大きく変わります。

今回の論文は、まさにこの「ものさしの側が変化しているかもしれない」という発想を、宇宙論のレベルにまで引き上げたものです。

研究者は、宇宙全体の背景としての時空と、物質世界の時空をきちんと区別してモデル化し、「背景の時空はほとんど変わらないが、物質世界の長さや時間のスケールがとてもゆっくりと縮んでいる」と仮定しました。

そのうえで、「そんな宇宙に住んでいる私たちが、今のようなやり方で宇宙を観測したら、どんなふうに見えるだろうか」を丁寧に計算し、冒頭で紹介したハッブル定数やS8、ダークエネルギーの謎にどこまで迫れるかを調べたのです。

その結果、ビッグバンから現在までの間に、物質世界のスケールが少なくとも一割以上、解析によっては三〜四割程度まで小さくなっているとみなすことで、遠方銀河の赤方偏移や超新星の明るさの変化をかなりうまく説明できることが提案されています。

まず、ハッブル定数の食い違いです。

初期宇宙のデータから求めた値が、現在の宇宙から直接測った値より一割ほど小さい、という問題でした。

もし「昔の一秒」が今より長かったなら、同じ出来事を測っても「一秒あたりの膨張の速さ」は小さく見えます。

つまり、時間の単位がゆっくり縮んでいると考えれば、ハッブル定数のズレは自然な結果として現れます。

コラム:世界が縮小したら原子は潰れないのか?

今回の「物質世界がじわじわ縮んでいるかもしれない」という仮説を聞くと、多くの人が最初に不安になるポイントがあります。「え、それって原子の大きさも小さくなるってこと? 電子が原子核に落ち込んで、世界が全部つぶれたりしないの?」という心配です。直感的には、「空間だけがギュッと縮んだら、+の電荷をもつ原子核と、-の電子の距離が近づいて、引き合う力が強くなりそう」と思えますよね。

ところが、量子力学と電磁気学の視点から見ると、原子が安定して存在できるかどうかは、「距離そのもの」よりも、もっと別の“比”によって決まっています。特に重要なのが「微細構造定数」と呼ばれる電子と光と電気の強さのバランスを表す比率や「電子と陽子の質量」の比率です。これらはメートルや秒やキログラムといった単位ではなく純粋な「比率(無次元の比)」です。この比率が崩れない限り、原子が潰れてしまうことはありません。そして「物質世界の縮小」では原子の直径は小さくなるものの原子を保つための比率は変化しません。そのため物質世界が“外側から”見て小さくなっていたとしても、内側に住んでいる私たちと原子から見ると、状況はずっと変わっていません。電子は、昔も今も「ほどよい距離」を保って原子核の周りを運動し続けます。

同様に物質世界の縮みがブラックホール化を起こす心配もありません。ブラックホールになる条件も、実は「密度の絶対値」ではなく、「重さと大きさの比」で決まっています。もし物質世界の縮小が、「重さ M と大きさ R が同じ割合で縮む」という全般的な縮小ならば物体もブラックホール化することもないのです。

原子やブラックホールの維持において絶対的な距離や密度ではなく、単位の無い無次元の比率に依存しているというのは非常に興味深い事実です。

宇宙のデコボコ具合を表すエスエイトのズレも同じです。

本来なら、重力で物質が集まるので、宇宙は時間がたつほど「ダマだらけ」になっていくはずです。

しかし観測では、初期宇宙からの予想より、今の宇宙のエスエイトが少し小さいように見えます。

ここでも、「昔の一秒が長い」「昔の一メートルが大きい」とすると、成長のしかたを換算し直さなければならず、その補正を入れると、エスエイトのズレは「物質世界のスケールが少なくとも一割以上縮んだ」サインと解釈できる、と著者は述べています。

次に、宇宙の加速膨張を示す決定的証拠とされたIa型超新星の暗さです。

遠方の超新星は、予想より二割ほど暗く見えることから、「宇宙の膨張が加速している」と考えられてきました。

ところが“縮む宇宙”の立場では、超新星が光を出した当時は、今よりも時間の単位が長かったとみなします。

出された光の総量は同じでも、「一秒あたりに届く光の数」は、今の短くなった一秒で数え直すと少なくなり、超新星が暗く見えるのです。

この効果を時間の流れ全体にわたって計算すると、宇宙誕生から現在までに、物質世界のスケールはおよそ三〜四割ほど小さくなっている、という数字が得られます。

DESI の観測が示した「ダークエネルギーの密度が時間とともに減っているように見える」という結果も、このモデルでは自然に出てきます。

著者は、いくつかの「縮み方」のパターンを数式で表し、現在の宇宙ではダークエネルギーによる見かけの押し広げる力が、昔より弱くなっているように見えることを示しました。

特に、物質世界のスケールが指数的に小さくなるモデルや、真空のエネルギーがだんだん効きやすくなるモデルを使うと、DESI のグラフにかなりよく重なるカーブが出てくると報告しています。

さらにおもしろいのは、最近見つかった「超新星の年齢バイアス」と呼ばれる現象とのつながりです。

これは、どんな年齢の銀河に属しているかによって、超新星の平均的な明るさに少し差がある、というものです。

観測では、その差は「十億年(およそ10億年)あたり約0.03等級暗くなる」というきれいな傾きで表されます。

またモデルから計算した「スケールの影響による暗くなり方」は、この傾きとほぼ同じ値になり、超新星データにその補正を入れると、DESI が行ったさまざまな解析結果が互いによくそろうようになると示されています。

ダークエネルギーについても興味深い解釈が現れます。

背景の真空にある「押し広げる力」は一定だとしても、押される側の物質の世界が縮んでいけば、その力が届く「面積」は時間とともに小さくなります。

その結果、物質側の住人から見ると、「ダークエネルギーの効き目がだんだん弱くなっている」ように観測されるのです。

著者はこれらの結果を踏まえて、「物質世界が約三〜四割縮んでいる」と仮定すると、ハッブル定数のズレ、エスエイトのズレ、超新星の暗さと年齢バイアス、DESI が見たダークエネルギー密度の減少など、いくつもの現象が同じ方向で理解しやすくなる、と主張しています。

既存の観測と理論の間に存在するいくつもの不一致を、気持ちいいくらいに一本の解釈である程度説明できそうだという結果は、まだ仮説段階ではありますが、とても刺激的だと言えるでしょう。

かつてアインシュタインは光の速度こそが不変であり、時空のほうが歪むという既存の価値観がひっくり返るような理論を打ち立て、現在の物理学はそのひっくり返った常識の上に打ち立てられています。

もしかしたら今後の研究により、宇宙が膨張していたという前提がひっくり返り、実は私たち物質側が縮小していたという前提で物理学が進展していくかもしれません。

次ページ「縮む物質」が宇宙論に投げかける問い

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