特定の人に執着する「有名人崇拝」と「パラソーシャル関係」
昨今、SNSの急速な普及にともない、ファンは憧れの俳優やミュージシャン、アイドル、アスリート、その他のインフルエンサーの活動を追っかけやすくなりました。
特にYou TubeやXを用いた活動は、動画のチャット欄やポストへの返信などを通じて会話している雰囲気も楽しめるため、一昔前のテレビに登場するだけの芸能人より心理的な距離を近く感じやすくなります。
そうした流れの中で、ファンは有名人と「パラソーシャル関係」を築きやすくなっています。
パラソーシャル関係とは、直接会ったことがなく、知り合いでもない有名人に対し、一方的な友情や親近感を抱く擬似的な社会関係を指します。
これはもともとはラジオのパーソナリティなどに対して一方的な親近感を抱く現象として、1956年から言及されていましたが、現代の配信者に対して熱狂する人が多い原因にはこのパラソーシャル関係が形成されやすいことが関係していると考えられます。
ただパラソーシャル関係は、基本的には健全な心理状態とされています。
問題となるのは、こうした一方的な感情が過剰に深まった場合です。
生活費を圧迫してでも推し活に励む。その人の発言はすべて正しいと思い込み、批判者に対して厳しくバッシングをする。熱愛報道に発狂する、となって来るとこれは病的な状態です。
この様な人たち「有名人崇拝(celebrity worship)」という用語で表現されます。
※有名人崇拝症候群(Celebrity Worship Syndrome:CWS)と表現されることもある。
有名人崇拝にも段階があり、心理学では軽度、中等度、重度の三段階に分類して研究されています。
軽度の場合は健全なパラソーシャル関係と重なる部分もありますが、重度になると自身の生活が破綻しても推し活に励んだり、ストーカー行動に発展したりするため、社会的な問題になっていきます。
近年の研究によると、有名人崇拝は不安や抑うつ、強迫観念といったネガティブな心理状態と関連していることが示唆されているため、専門家らは懸念を抱いています。
なお、有名人と便宜的に表現されていますが、ここで言う有名人とは必ずしも社会的な知名度や注目度がある人のことではありません。この文脈で重要なのは、身近な知り合いではない人物に対して、個人が異常なほどの関心や執着を示してしまう点です。
そのため、「俺の推しは誰も注目してない個人勢だから関係ないな」と考える人がいたらそれは間違いです。
地下アイドルや個人配信者は、より身近でアクセスしやすい存在になるため、ファンとの間に深い感情的な絆を築きやすい傾向があります。これはファンによる過剰な投資や執着を引き起こしやすいため、有名人崇拝を形成する危険度はむしろ高い可能性があります。
確かにSNSを見ていても、インフルエンサーの話を無条件に信じ込んでしまう人や、裕福なわけでもないのに極端なグッズの買い漁りや、高額な投げ銭(スパチャ)を繰り返す人などを見かけることがあります。
しかし殆どの場合、本人たちはそれが異常であることに気づいていません。
ではどういう人が、有名人崇拝に陥りやすいのでしょうか? リスクのある人たちの特性を理解することは、この状態を予防するために重要になってくるはずです。