「たくさん走る性質」を得ても、繁殖と寿命は犠牲にならなかった
100組のうち98組は、少なくとも一度は子どもを産みました。
そして生涯に離乳まで育った子どもの数は、対照系統で平均29.1匹、HR系統で25.8匹でした。
数字だけを見るとHR系統の方が少なく見えますが、この差は統計的には有意ではありませんでした。
さらに出産回数や繁殖できた期間、子どもを離乳まで育てられた割合などについても、HR系統が一貫して劣るという結果は得られませんでした。
一方、HR系統では出産から次の出産までの間隔がやや長い傾向も見られましたが、統計的には境界的な結果で、なぜそうなるのかもまだ分かっていません。
寿命についても、HR系統と対照系統の平均寿命には、雌でも雄でも明確な差がありませんでした。
さらに「若いうちにたくさん繁殖すると後半の繁殖能力が落ちる」「多くの子どもを残した親ほど早死にする」といった関係も確認されませんでした。
では、予想された「代償」はなぜ現れなかったのでしょうか。
一つの可能性として研究者が挙げているのが、増えたエネルギー需要を別の方法で補っていたことです。
過去の研究では、HRマウスは対照マウスより多く食べることが知られています。
今回の実験でも餌と水は自由に摂取できたため、必要なエネルギーを食事から補い、繁殖や体の維持に回すエネルギーまで削らずに済んだ可能性があります。
また、長い選択交配の過程で、エネルギーの使い方や代謝などに、活動性の高さを補う変化が生じた可能性も考えられます。
ただし、これらは今回の研究で直接確かめられた仕組みではなく、今後検証する必要があります。
自然界のように食料が不足したり、自分で餌を探したりする環境なら、隠れていた「代償」が現れる可能性があります。
今後は餌を制限した環境や、実際に回し車を利用できる条件でも同じ結果になるのかを調べることで、活発に動くことと繁殖や寿命の関係がさらに明らかになるでしょう。
「ある能力を極端に伸ばせば、別の何かが犠牲になる」とは限らない。
今回の「強化マウス」は、生物が予想以上に柔軟な仕組みを持っている可能性を示しています。































