宇宙への進出は、人類最大の功績でありながら、常に危険と隣り合わせにあります。
微小重力や極低温という環境の中、宇宙飛行士たちは過酷なミッションを遂行しなければなりません。中でも宇宙に渦巻く放射線量は、地球の700倍以上におよび、被曝リスクがきわめて高いのです。
そこで専門家たちは、宇宙飛行士にクマムシのDNAを組み込むという大胆な計画を立てています。
クマムシは、生物界最強の耐久性を持つことで知られており、真空でも絶対零度でも死なず、多量の放射線を浴びても平気です。
研究を進めるワイル・コーネル大学(米)の遺伝子・生物学者クリス・メイソン氏は、「クマムシの能力を遺伝子的に掛け合わせることで、過酷な宇宙環境を耐え抜く人体が作れるかもしれない」と話しています。
クマムシ最強説を支える物質「Dsup」
クマムシの高い耐久力を支える秘密の一つに「乾眠」という習性があります。
乾眠に入ったクマムシは、通常85%ある体内の水分を3%以下に落とし、代謝をほぼ全面的にストップさせます。この状態が、過酷な環境に耐えられる「無敵モード」なのですが、水にさらされるとまた元に戻ります。
この乾眠能力を人体に付与することは無理ですが、クマムシにはもう一つ秘密が隠されています。
2016年の研究で、クマムシの体内に、放射線からDNAを保護する役割を果たす「Dsup」というタンパク質が発見されたのです。
そして、ヒトの細胞にDsupを与えて放射能の照射テストを行うと、Dsupを持っていないヒト細胞に比べ、受けるダメージが半減することが判明しました。しかも、Dsupを持つ細胞は、照射後も分裂・繁殖機能を維持していたのです。
メイソン氏は、「Dsupを人体に組み込めば、放射能に耐えられる宇宙飛行士が誕生する可能性は高い」と述べています。