全ての受精卵をランク付けする
これまでの多くの研究で、人間の特質における遺伝と環境の影響度が調べられてきました。
そのなかでもIQをはじめとする知能は、人間の様々な特質の中でも比較的多くの割合(60~80%)を遺伝子によって支配されています。
2018年に行われた研究では、学業成績にかかわる1000を超えるDNA領域が明らかになりました。
また同年に行われた遺伝子と大学進学を調べた研究では子供たちが将来進むことになる「大学の学力レベル」の57%が複数の遺伝子の影響下にあることが示されました。
この結果は、人間の知能にかかわる特質がポリジーンスコアで評価可能であることを示しています。
そのためGenomicPrediction社のCEOは、全ての受精卵のIQスコアをランク付けして、最も優れた受精卵を子宮に入れることも可能と述べています。
しかし受精卵の選択は、命にかかわる問題であり、安易な扱いはできません。
そこで今回、研究者たちは受精卵の選択において「幸福」を基準にする規制モデル(ウェルファリストモデル)を発表しました。
この規制モデルでは受精卵の選別を全面的に禁止したり、あるいは完全に自由化するのではなく、幸福につながる分野のみ、受精卵の選別を許可するというものです。
例えば遺伝性の疾患は不幸の要因と考えられるため、疾患をかかえた受精卵の情報提供は認められます。
ただ知能(IQ)の場合は異なります。
なぜなら現代において知能の高さは必ずしも幸福に繋がらないとされているからです。
そのため幸福を基準にした規制モデルでは、どの受精卵が高いIQスコアであるかを両親たちに教えることは禁じられます。
一方で、IQ85未満の人々は日常生活の多くの分野で苦しんでいることが数々の研究で示されているため、IQが85を下回ると予想される受精卵がある場合、その受精卵がどれかを教えてもらえるので排除することができます。
幸福を基準にした規制は、全面的な禁止と放任主義の間でバランスをとる方法になると、研究者たちは考えています。
ただ身長や容姿などの要素は、国や文化によって不幸とされる基準が異なるため、また別な議論が必要になるでしょう。