ダイバー襲撃は5〜8月の交尾期に頻発していた
陸生のヘビは一般に、人から大変恐れられていますが、実際に人と遭遇した時は、立ち向かうより逃げる方が圧倒的に多いです。
一方のウミヘビは、わざわざ自分からダイバーの方に近寄っていきます。
人間側から近づいたわけでも、嫌がらせをしたわけでもありません。しかも、獲物にするには明らかに大きすぎますし、サンゴ礁の中に避難すれば、人間など簡単に撒くことができます。
本研究主任のティム・リンチ氏は、1994年から1995年にかけて、オリーブウミヘビの主な生息地であるグレートバリアリーフ付近でダイビング調査を行いました。
その際、オリーブウミヘビと158回遭遇し、うち74回は最接近されています。
リンチ氏と研究チームは、これらのデータを新たに分析し、なぜ本種がダイバーに近寄るのかを調査しました。
分析の結果、ダイバーに接近するウミヘビはメスよりオスの方が多く、しかも接近の大半は、5月〜8月の交尾期に起こっていると判明したのです。
交尾期以外にオスがダイバーに近づくことはほとんどなく、反対に、メスがダイバーに近づく割合は、交尾期とそれ以外の時期で違いはありませんでした。
もう一つの特筆すべき違いは、オスの方がダイバーの体を舌で打ったり、フィンに巻きつく確率が高かったことです。
これらはメスへの求愛行動として知られています。
また、オスのダイバーへの接近は、メスに求愛して失敗した直後や、ライバルのオスとの争いに負けた後に発生していました。
以上を踏まえると、オスのウミヘビは明らかにダイバーを交尾相手と勘違いしていることが伺えます。
ある調査記録によると、「ダイバーがオスのウミヘビから逃げようと20分近く泳ぎ続けたが、ヘビを撒くことはできなかった。あきらめて立ち止まると、ヘビは1分ほどダイバーの体を舌で突いた後、その場を去っていった」と報告されています。
陸生のヘビは、交尾相手を見つける際、メスの出すフェロモンの匂いを頼りにしています。
しかし、このような化学物質は水溶性でないため、海洋環境では嗅覚を頼りにできません。
また、オリーブウミヘビの視力は陸生のヘビほど明瞭でなく、水中ではかなり視力が落ちていると思われます。
そのため、似たような泳ぎをしているダイバーをメスと錯覚しているのかもしれません。
リンチ氏は、オリーブウミヘビにアプローチされた際の対処法として、「無理に追い払わない方が安全」と指摘します。
オリーブウミヘビは致命的な毒を持っており、噛まれると非常に危険です。
「このような状況下での最善の戦略は、ウミヘビが間違いに気づくまで調べさせることです。逃げようとしても無駄で、かえって反感を買う可能性があります。
ヘビが脅かされたり怪我したりしない限り、噛まれる可能性は低いでしょう」と述べています。
日本では沖縄の海にウミヘビがいますが、オリーブウミヘビと遭遇することはありません。
しかし、もしオーストラリア近海でダイビングする機会があるなら、ご注意を。