歌とウイルスが似たように広がる理由
研究者によると、「研究で調査された多くの人気曲のダウンロード数の時系列変化と、感染症の時系列は似た形状をしている」と話します。
SIRモデルは、病気の伝播の基本的なメカニズムを明らかにするため開発されたものです。
それがヒットソングの流行についても、同様に推論できるというのは、一見荒唐無稽なアイデアに聞こえます。
しかし、以前から研究では両者の類似について仮説が立てられていました。
音楽が「流行る」理由は、その曲が本来持っている魅力によるものかもしれませんが、最近の研究では、コミュニティの構造が曲の人気に影響を与えることが示唆されています。
例えば、今回の研究では、さまざまなジャンルの曲を比較したところ、ファンの間でダウンロードや音楽共有の行動が異なることがわかりました。
英国では、ポップスが最も人気があるジャンルと考えられていますが、それにも関わらずエレクトロニカのジャンルの曲が最も早く人気を獲得し、「拡散」する傾向が示されました。
これはエレクトロニカはニッチなジャンルであるが故にファン同士の結びつきが強く、そのためポップスのように広く愛されているジャンルに比べて、キャッチーな曲を積極的に共有する効率が高いと考えられます。
つまり、これらの曲は、他のジャンルの曲よりもその影響を受けやすい集団に素早く蔓延するように見えるのです。
これは日本の場合、AKB48や嵐、あるいはアニメソングなど、結束の固いファンのコミュニティで流行した曲ほど、世間でも広く認識される可能性が高くなることを意味していると捉えることができます。
同じようなことは、ウイルスが流行するときにも起こります。
この場合、エレクトロニカファンのような結びつきの強いコミュニティは、ウイルスに対する感受性の高い人(抗体が少ない人)や、現在「密」と表現される状況を表現していると考えられます。
ウイルスは密なコミュニティの交流を通じて人から人へと感染し、一気に広がっていきます。
しかし、流行曲がやがては飽きられて廃れていくように、ウイルスも感染しやすいグループが枯渇すると、感染数のピークに達した後、減少に転じます。
「感染症流行の終わりには、人口の大部分が病気に感染しているでしょう。
非常に人気のあるヒット曲の流行の終わりでは、人口の大部分の人がその曲を耳にしています」
研究に参加したマックマスター大学の数学者ドーラ・ロサティ氏は、SIRモデルがポピュラー曲のダウンロード傾向を適切に記述しており、曲の人気を促進するプロセスを適切に表現している可能性が高いと話します。
もちろん、この研究はまだ限定的なデータを分析したに過ぎないため、研究者はより広範なデータを使用して研究を強化していくことを目指しています。
現在の状況では、ウイルスになぞらえた研究にはネガティブな印象を抱いてしまいますが、この研究は社会に音楽を広める方法に光を当てようとしています。
コロナウイルスのように、こまめに変異を繰り返せば、同じ曲を長く流行させることもできるのかもしれません。