「かむ動作」と「植物成分」を組み合わせる
ザッカリーさんが、このガムを思いついた背景には、身近な家族の経験がありました。
彼の祖母は強い緊張や不安に悩まされており、処方薬によって症状は改善したものの、重い副作用が現れたといいます。
一時は、歩いたり立ったりすることさえ難しくなったそうです。
この経験からザッカリーさんは、必要なときに手軽に利用できる、別の選択肢を作れないかと考えるようになりました。
そこで目を付けたのが、高校生の間でも日常的に利用されている「チューイングガム」です。
ガムなら、錠剤や特別な器具とは異なり、学校や外出先でも比較的自然に使用できます。
さらに、ガムをかむ行為そのものについても、ストレスや不安を軽減する可能性を示した研究があります。
過去の研究をまとめたレビューでも、ガムをかむことは低コストで実行しやすい不安対策になり得ると報告されています。
ただし、すべての場面や人に同じ効果が出ると確定しているわけではなく、効果の大きさや仕組みについては研究が続いています。
2人がガムに加えたのは、パッションフラワーの一種である「Passiflora incarnata」の抽出物です。

パッションフラワーは白や紫色の花を咲かせるつる性植物で、伝統的には鎮静作用を期待したハーブとして利用されてきました。
この植物には「フラボノイド」と呼ばれる成分が含まれています。
フラボノイドは多くの植物が作り出す化学物質で、植物の組織を酸化による損傷から守る働きなどを持っています。
パッションフラワーの抽出物については、脳内で神経活動にブレーキをかけるGABAという情報伝達物質の仕組みに作用する可能性が報告されています。
GABAは「ガンマアミノ酪酸」の略称で、ニューロンが過剰に興奮するのを抑える役割を持ちます。
パッションフラワーの成分がGABAの受容体や取り込みに影響し、神経系を落ち着かせる可能性が考えられているのです。
ただし、「パッションフラワーを摂取すれば脳内のGABAが単純に増える」と断定できるわけではありません。
詳しい作用の仕組みは完全には解明されておらず、人を対象とした研究もまだ十分ではありません。
2人のアイデアは、この植物成分をガムに練り込み、かむ動作によって少しずつ放出させるというものです。
リズミカルな咀嚼(そしゃく)による作用と、パッションフラワー抽出物による作用を組み合わせれば、どちらか一方だけの場合よりも緊張を和らげやすくなるのではないかと考えました。
試作したガムには、ガムベース、粉砂糖、複数の甘味料、柔軟剤、パッションフラワーの抽出物などが使われました。
当初、2人は地元に自生するパッションフラワーから自分たちで成分を抽出する予定でした。
しかし、実験を行ったのが冬で、花の季節が終わっていたため、最終的には市販の抽出物を使用しました。






























