ガムをかまずに「成分の放出」を確かめる
ガムを完成させた2人には、大きな問題が残されていました。
自分たちが作った試作品を、いきなり人に食べてもらうことはできなかったのです。
安全性や倫理面の審査を受けていないガムを人に渡し、不安が軽くなるか試すわけにはいきません。
そこで2人は、人体を使わない実験によって、ガムの中に植物成分が均等に含まれているか、さらにガムが細かくなったときに成分が外へ放出されるかを調査。
最初の実験では、完成したガムを薄く切り、顕微鏡で内部を観察しました。
そしてコンピューターソフトを使い、視野内に見えるフラボノイド粒子の分布を解析。
ガムによって含まれる量が大きく異なれば、食べる部分ごとに摂取量が変わってしまいます。
そのため、成分ができるだけ均一に混ざっていることが重要です。
2人が用いた評価方法では、ばらつきを示す値を15未満にすることが目標とされており、試作品では8.4という結果が得られました。
これを受けて、2人は成分が十分均等に分布していると判断しました。
次に行ったのが、フラボノイドを検出する「シノダ試験」です。
これは、試料に特定の試薬を加えたときの色の変化から、フラボノイドが存在しているかを調べる方法です。
しかし、シノダ試験は通常、液体の試料に対して行われます。
2人が作ったガムは固体であるため、そのままでは内部のフラボノイドが液体中に出てきません。
最初にガムを小さく切ってアルコールに3時間浸しましたが、目立った変化は起こりませんでした。
フラボノイドがガムの中に閉じ込められたままで、液体中へ十分に移動しなかったためです。
ここで2人は、実際に使用するときには歯でガムを繰り返しかみ、より細かく変形させることに気づきました。
しかし自分たちで試作品をかむことはできません。
そこで、ガムを手でさらに細かくちぎり、かむ動作によってガムが砕かれる状態を再現しました。
さらに、液体に浸す時間を3時間から3日間へと延ばしました。
すると試験液が鮮やかなオレンジ色に変わりました。
これは、ガムの内部にあったフラボノイドが液体中へ放出され、検出できる状態で残っていたことを示します。
塩酸などの厳しい条件にさらした後にも反応が確認されたことから、成分がすぐに完全分解してしまうわけではないことも示されました。
ただし、この実験で証明されたのは、試作ガムにフラボノイドが含まれており、ガムを細かくすることで成分を取り出せるという点までです。
実際に人がかんだとき、どれだけの成分が唾液中に放出されるのかは測定されていません。
放出された成分が体内に吸収されるか、どの程度の量が適切なのか、実際に不安が軽減するのかについても、まだ検証されていません。
パッションフラワー自体についても、不安症状を軽減する可能性を示す小規模な研究はあるものの、結論を出すには研究が十分ではないとしています。
眠気、めまい、混乱などの副作用や、薬との相互作用が起こる可能性もあるため、現段階の試作品を治療薬とみなすことはできません。
それでも、今回の研究の面白さは、不安を治療できるガムが完成したことではなく、「かむ」という身近な行動を、植物成分を届ける仕組みとして利用しようとした点にあります。
チューイングガムは持ち運びやすく、必要なときにすぐ使用できるという特徴があります。
将来、安全性や有効性が人を対象とした試験で確認されれば、面接や試験、プレゼンテーションを控えた人が一時的な緊張に対処する、新しい選択肢になるかもしれません。






























