カキが「入れ歯」を住処に選んだ?
この奇妙な標本が見つかったのは1898年のこと。
米国バージニア州のチェサピーク湾で船が海底から引き上げ、その後スミソニアン国立自然史博物館の所蔵品となりました。
標本をよく見ると、人工の歯が並んだ入れ歯の表面に、アメリカガキ(Crassostrea virginica)がしっかりと付着しています。
一見すると異様な組み合わせですが、カキの生活史を知ると、なぜこんな標本が生まれたのかが見えてきます。

春になって水温が上がると、成体のカキは水中に大量の卵と精子を放出します。
受精後に生まれた幼生は、成体とは違って自由に泳ぐことができ、2〜3週間ほど水中を漂います。
そして成長すると、今度は一生を過ごすための場所を探し始めます。
幼生は筋肉質の「足」を使って海底を這い回り、定着する場所を見つけると、特殊な接着物質で体を固定します。
ここで重要なのは、カキが付着する相手をそれほど厳しく選ばないことです。
これまでにも沈没船や陶器など、さまざまな人工物に付着したカキが見つかっています。
海底に沈んだ入れ歯も、カキにとっては単なる硬い足場の1つだったのでしょう。
こちらはカキのライフサイクルをまとめた動画。
こうして、誰かが失った入れ歯は偶然にも若いカキの「一生の住処」になりました。
結果として、人間の歯とカキが一体化したような、極めて珍妙な標本が誕生したのです。


































