マウスの毛の一部は赤外線センサーと同じ構造をしていた
謎を確かめるためベイカー氏はマウスの毛に着目しました。
もしマウスに捕食者の赤外線を探知する未発見の能力があるならば、研究しつくされた目や鼻ではなく、体毛にあると予想したからです。
すると、非常に興味深い事実に気付きます。
マウスの体毛は4種類の異なる毛によって構成されているのですが、そのうちの1つ「ガイドヘア」と呼ばれる長い毛が、赤外線センサーあるいは赤外線アンテナとそっくりの構造をしていることに気付いたのです。
赤外線は0.78μmから1000μm(1mm)の波長を持つ電磁波をさします。
マウスのガイドヘアは10μmごとに、しま模様のような構造をとっており、他の波長を弾いて10μmの波長を持つ赤外線のみを根元に選択的に伝達させる構造になっていたのです。
そしてネコやフクロウといった動物の捕食者から発せられる赤外線の波長も、ちょうど10μmであることが知られています。
この結果は、マウスの毛が赤外線センサーである場合、感知可能なのは捕食者から発せられる10μmの赤外線のみであることを示します。
逆を言えば、マウスの赤外線センサーは捕食者の赤外線を感知するためだけに存在する可能性があるのです。
しかしこの時点では、マウス(ハツカネズミ)の毛だけが10μmの赤外線をキャッチできる構造をしている可能性もありました。
そこでベイカー氏は、他のげっ歯の毛も調べることにしました。
すると16種類のネズミやリス、ハタネズミ、さらにウサギに至るまで、幅広いげっ歯類の毛に、同様の赤外線センサーに似た(10μmの波長に特化した)構造があることを発見します。
この結果は、毛によって捕食者の赤外線を感知する仕組みは、げっ歯類において幅広く存在する仕組みである可能性を示します。
一方で、地中で生活しているため360度の警戒を必要としないモグラや、飛び回ることができるコウモリなどでは、赤外線センサーのような毛はみつかりませんでした。