ホッキョクウサギ、真冬の大冒険!
ホッキョクウサギ (Lepus arcticus)は、カナダ北部からグリーンランドにかけて分布するノウサギ属の一種です。
現生するウサギ目の中で最大種のひとつであり、平均的な体長は43〜70cm(尻尾をのぞく)、体重は2.5〜5.5kg、大型個体では7kgを超えます。
一般的なウサギに比べて脚が長く、時速60km以上で走ることが可能です。
1羽のオスが複数のメスと交配し、メスは6月頃におよそ2〜8羽の子どもを産みます。
子は単独行動できるまで母のもとで暮らしますが、大人になっても群れで生活する場合もあります。
寿命はだいたい5年程度です。
UQARの研究チームは今回、ホッキョクウサギが極寒の地でどのように移動しているかを知りたいと考えました。
そこで2019年に、カナダ最北・ヌナブト準州のエルズミア島北端付近で捕獲した25羽のホッキョクウサギにGPSの首輪を装着。
ウサギを野生に放し、どれだけ移動しているかを追跡しました。
その結果、どのウサギも研究者らが予想していなかったほど長距離移動していることが判明しています。
ウサギたちは平均して110〜310kmの間を移動しており、その内の1羽、「BBYY」と呼称されるメスの個体は、49日間で388kmを走破していました。
ノウサギは普通、食べ物が豊富で見つけやすい、馴染みのある単一のテリトリー内で一生を過ごすことが知られています。
この常識からすると、今回の結果は予想をはるかに上回るものです。
コロラド州立大学(CSU・米)の生態学者で、本研究には参加していないジョエル・バーガー(Joel Berger)氏は「極限状態で暮らすこの小さな動物が、7週間にわたって1日平均約8kmを走ったとは、本当に驚異的なこと」と述べています。
ホッキョクウサギには、キツネやオオカミといった天敵が存在し、むやみに長距離を移動するのは危険なことです。
トレント大学(TU)の生態学者であるデニス・マレー(Dennis Murray)氏は、こう指摘します。
「ホッキョクウサギがこのような危険な旅に耐えるには、(天敵の)餌にならずに(自分の)餌を見つけなければなりません。
それを踏まえると、BBYYの長距離移動はより印象的かつ驚くべきものです」
残念ながらBBYYは、最終目的地に到着して約1カ月後に原因不明の死を遂げています。
本研究主任のドミニク・ベルトー(Dominque Berteaux)氏は、今回得られたデータが極地の生態系の保護戦略に役立つことを期待しています。
「まだ調査の初期段階ではありますが、よく知っていると思っていた動物に思いがけない発見があったことは非常に嬉しいことです」とベルトー氏は述べています。