ニホンザルは文字で単語が綴れた
実験の結果は、サルが対象を見て、それを表す単語をイメージし、文字で綴ることができることを示しています。
この実験では、単語に含まれる図形を選ばせるだけで、特に選択の順番というものは設定していませんでした。
しかし、興味深いことにサルは毎回、文字をランダムな順番に選ぶのではなく、作業を繰り返すことで徐々に固定化させていったといいます。
これは、サルが独自に単語を綴る文字の順番を作り出していったと考えられます。
「ネコ」と「コネ」では意味が異なるように、私たちが言葉を綴る場合でも、特定の順番で文字を選ばなければ単語は作りにくいものです。
サルも同様に、ただ構成される図形を選ぶというだけでなく、言語に近い理解でこの作業を実践していたのかもしれません。
また、この実験で使われた図形文字モデルでは、実際の言語と同じように、異なる単語で、共通の文字を使うパターンも設定されていました。
「あか」と「あさ」では同じ「あ」という文字を共有しますが、意味は異なります。
これは有限の文字から無数の単語を作るためには当然のことですが、単語同士の紛らわしさを生み出します。
サルは、こうした共通の文字を使った単語では、たびたび綴りのミスを起こしました。
このことは、サルが単純に単語を丸暗記したのではなく、それぞれの単語を構成する文字を1つずつ意識して使っている可能性を示唆しています。
言語にはさまざまな特徴があるため、この実験だけでサルにも言語能力がある、と断言できるわけではありません。
しかし、今回の結果は、サルが単なる暗記ではなく、文字という単位を認識して「言葉を道具として使用した」初めての例です。
これは、ヒトとニホンザル共通の祖先に、言語を理解し操るための素になる能力が備わっていた可能性を示唆します。
二重分節構造の解析は、脳科学の分野でもまだ完全には解明されておらず、人工知能の分野においても、二重分節解析を用いて対話できるロボットの設計論は確立されていないと言われています。
この研究は、人の言語進化の起源に迫る重要な発見であり、またヒトが言語発達や言語獲得するプロセスを理解する上でも大きなヒントとなる可能性があります。