AI教師は個別指導のように生徒の実力を常に測定している
基礎データが集まると、次に研究者たちはAI本体の開発にかかりました。
AI教師もまた人間の教師と同じく、まず基本的な知識や法則を説明し、続いて理解度を確認するための練習問題が提示されるように設計されています。
1対多数の教室授業では学生が理解していようとしていまいと、教師はどんどん先に進んでしまいますが、AI教師は3つの機能を使ってそれを防ぎ、個別指導の効果を発揮できるようになっています。
新たに設定された3つの機能は、それぞれ「推論エンジン」「命令エンジン」「会話モジュール」と名付けられました。
「推論エンジン」は個別指導型AI教師の肝となる部分であり、生徒が問題を解決する過程を観察して生徒の実力を推測する機能が与えられています。
次に推測エンジンによる判断結果は「命令エンジン」に送られ、生徒の実力に合致する新たな問題が提示されます。
そして「会話モジュール」では生徒がAI教師に対して自然な言語での質問を行える機能が追加されました。
この会話機能は「今日の天気」や「恋バナ」など自由度の高い会話はできませんが、授業内容にかんする質問に的確に答えられるように設計されています。
加えて授業の合間には人間の教師から収集された、艦隊でのIT技術者としての「長年の経験」に基づく興味深い話も含まれ、臨場感を増す工夫もされています。
そして生徒たちが説明用に提示された内容を十分に理解していると判断された場合には、より抽象度が高いレベルの話に進んだり、関連する周辺のトピックに対する説明に進みます。
一方、生徒の理解が不十分であると判断された場合には遡ってより詳しく優しい説明が繰り返され、練習問題によって理解度が再チェックされることになります。
この巻き戻し機能を利用すれば、生徒たちはつまづいていた部分まで遡っての再学習が可能となり、生徒がわからない部分を特定して教える個別指導の最大の利点を一部再現することが可能になります。
研究に参加した生徒たちは、このAI教師によるIT技術の教育を4カ月にわたり継続し、最終テストによって知識や問題解決能力を、一般的な教室授業を受けた生徒たちや、5年以上艦隊での実務経験がある職員と比較されました。
すると最終テストにおいて、人間による普通の教室授業を受けた生徒たちは平均して問題の38%のみしか解決でず、ベテランたちが解決できた問題も全体の52%に留まっていましたがAI教師による個別指導を受けた生徒たちは平均して全問題の74%を解決することができたことが判明します。
特に「トラブルシューティング」の分野における成績の差は明確であり、上の図のように、AI教師の個別指導を受けた生徒たちは、ベテランや教室授業を受けた生徒に大きな差をつけています。
この結果は、1対1の個別指導の効果がAI教師によってある程度、再現できていることを示します。