学習には個別指導という聖杯がある
あまり知られていない事実ですが、学習には「聖杯」が存在します。
その聖杯とは、教師と生徒が1対1で向き合う「個別指導」です。
個別指導は古くから高い効果があることが知られていましたが、今から40年前の1982年に行われた研究により、その圧倒的な効果が改めて報告されました。
研究では、上の図のように、従来の教室授業が行われた場合と1対1の個別指導が行われた場合の生徒の成績成果が比較されており、成績の差が2標準偏差に及ぶことが判明します。
つまり1対多数の教室授業を受けた生徒を基準にすると(平均点が偏差値50)、1対1の個別指導を受けた生徒たちの平均点は偏差値70に相当するレベルに達していたのです。
しかし1対1の個別指導には成果に見合う「高コスト」という欠点がありました。
特に軍隊の新人教育などの現場では、1人1人の新兵に対して教官がつきっきりで教育を行うのは不可能です。
そこで今回、米国国防高等研究計画局(通称DARPA)は、個別指導の圧倒的な効果を低コストで再現する方法として、AI教師を開発することにしました。
もしAI教師が個別指導の効果を一部でも再現することができるならば、この圧倒的な教育効果を多くの生徒に与えることが可能になるはずだからです。
開発にあたってはまず、教師となるIT技術者が持つ専門的な知識の収集し、データベース化が行われました。
これら専門家から集められたデータは「黒板」や「プロジェクター」に書かれる内容だけでなく、関連する参考資料や知識やスキルをチェックする問題文にも及びました。
また教師と生徒の1対1の個別指導を実際に行ってもらい、教師と生徒の間で行われた全ての説明・質問などの会話音声を記録・データ化しました。
多くのプロ教師にとって自分の持つ知識や板書内容、ネタ帳、授業風景を吐き出してしまうことは、自らの首を絞めることになりますが、DARPAの研究者たちはこの問題を「お金」で解決しました。
発表によれば、研究予算の半分が専門家からの知識収集の対価に当てられたと報告されています。
しかし基礎データを集めただけでは「個別指導ができる教師」は作れません。
研究者たちはどんな方法でAI教師を作ったのでしょうか?